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2023.03.01

不動産フォーラム21

Z世代 ニューレトロなブームのつくり方

 
 

●“エモい”感覚 
 ルーズソックスの高校生グループがセンター街を闊歩しています。昔はやったルーズソックスを10代女子が得意気にファッションにしているのです。昔とは約20年前の平成時代でバブル崩壊後の長引く経済低迷期でしたが、若者にはギャルファッションやガングロファッションがはやり全国に広がりました。ルーズソックスはギャルファッションの象徴的アイテムで、今のZ世代に再びウケているのです。こんなZ世代の再ブームは他にもありファッション以外にも、音楽や雑貨まで“平成レトロ”と呼ばれる20年~30年前の流行が再び人気になっています。

 

 2000年前後生まれのZ世代には自分が生まれた頃のトレンドが懐かしい未知なる世界に感じ「エモい」とうけとめられています。“エモい”はエモーショナルの略で温かみや心が揺さぶられる良い感情のこと。Z世代は幼少期からパソコンやケータイというネットワーク環境の下、高速・効率で整理され処理されていくオンラインが日常舞台の世代です。その若者たちがあえて不便で時間を費やす必要のある平成時代の流行をアナログで“エモい”感覚としておもしろがっているのです。

 
 

●“手間かかる”が楽しい
 「写ルンです」のレンズ付きフィルムが発売(1986年)され37年がたちました。重いカメラにフィルムを装着したそれまでの写真撮りに対し軽量でフィルム装着なしの「写ルンです」は画期的な商品でした。バッグにポンと入れられ誰でもが簡単に扱えたことで子供から高齢者まで写真を撮る手軽さが実現したのですが、土台はフィルムなのでよく巻き上げを忘れたり、フィルムの最後に半身だけ写っていたりと失敗もたびたび。店へ現像に出し数日後に取りに行くという手間が必要でした。

 

 ところがスマホにはない不便さや「写ルンです」のボケやブレが独特の雰囲気ある写真になり面白いとZ世代にウケています。フィルムを巻き上げファインダーをのぞきアングルを決めてシャッターを押すという、1枚の撮影を大事にする事が新鮮だと評価されているのです。そして現像には時間がかかり、どんな写真になったのか楽しみな待ち時間がワクワクする、これがあえて不便なツールを選ぶZ世代の“エモい体験価値”になっています。結果「写ルンです」が富士フィルムの売上を増加させています。

 

 音楽の世界でも同様なZ世代がけん引するブームが起こっています。都心ではアナログレコード専門店がオープンするほどレコードが若年層を中心に注目され新譜をアナログレコードでしかリリースしないアーティストも出現するほどです。昭和生まれ世代はアナログレコードが唯一の音楽を楽しむ手段で、カセットテープで編集して友人と交換した思い出あるレコード世代ですが、インターネット配信サービスで音楽をお手軽に聴いてきたZ世代は、コレクションとしてジャケットがバエる、プレーヤーで手間をかけて聴く感じが新鮮で特別な愛着がわくという“手間と不便さ”を魅力ポイントに挙げています。その結果アナログレコードの生産額は2010年1.7億円程度に低迷していたものが2020年には21億円まで大幅増加となり業界は活気立っています。

 

 このアナログレコードブームにはバックストーリーがあり“シティポップ”と呼ばれる70年代~80年代に日本でつくられた都会的で洗練されたメロディのポピュラー音楽(大瀧詠一、山下達郎、松任谷由実、大貫妙子等)がオンラインでZ世代に注目されカラオケでも人気選曲になりました。ある評論家は現代領域の複雑な曲よりカラオケでみんなで歌えたり踊れたりするなじみやすさがブームのポイントだと指摘します。昨年は「ロマンスの神様(1993年)」や「真夜中のドア(1979年)」がTikTokで超大ヒット。シティポップの当時のレコードは希少性が評価され中古市場では高額で売買されています。

 
 

 昨年来、街にはY2Kファッション(Year2000の略)と言われるお腹出しやミニスカート・ミニキュロットの健康的で若々しいファッションの女性が増え華やかです。男性もスカートのような太いパンツやKポップアーティストのようなメイクをしてお洒落です。平成ブームと紹介しましたが、昔の流行をそのまま再現する人はいません。自分たちの価値観でレトロをアレンジし今どきのニュースタイルにつくり楽しむZ世代のセンスの良さを感じる春です。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2023年3月号掲載)