繊研新聞
SCは人生時間を支える 物やサービスへ
営業を再開させるショッピングセンター(SC)では、全テナントを揃えた再開は困難だろう。休館中に倒産したり、再開資金やスタッフの準備ができないテナントが続出するはずだ。特に、この傾向が強いのはファッション系で、リアルからECに切り替える事業者もいる。休店や空区画の歯抜け再開を余儀なくされる。コロナ禍がファッション系テナントの弱体化を招くのではなく、SCでは数年前から、ブランド廃止や売り上げ不振による撤退があり、消費者傾向でみれば、家計調査の被服の消費支出は減少の一途をたどっている。コロナ禍が潜在を顕在化するわけだ。
消費者は長期在宅で暮らし方の意識を変えている。自然や社会活動が安定的持続性を持つ「サステイナブル」の大切さ。自分に必要な最小のもので豊かに生きる「ミニマリスト」の暮らし方。身体的、精神的、社会的にも良好な状態を保つ「ウェルビーイング」な日常。いずれも負荷のない等身大の個を軸にした生活意識の変化だ。そしてファッションもテレワークの普及が身なりの整え方を“楽で軽い”方向に変えさせている。
バブル崩壊がSPA(製造小売業)を、リーマン・ショックがファストファッションをと、有事はファッションに新業態をもたらしたが、今回は食やサービス分野で新業態を生むだろう。人々の関心がファッションから人生の充実した時間の過ごし方にシフトしているからだ。そしてEC拡大の中、集客力の見込める交通網・道路網が整った立地のSCだけがコンパクトな面積で生き残る。食や趣味やレジャーといった人生時間を支える物やサービスの新業態にテナント構成は変わり、ファッション系もその一要素に加えられSCは前進するはずだ。
(記:島村 美由紀/繊研新聞 繊研教室【特別編】 2020年(令和2年)5月18日(月)掲載)