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2017.03.02

繊研新聞

SCにはコトキュレーターが不可欠

 

コト提案を実現するために
 首都圏のあるSCの運営協力を行う中で、販売促進の視点からイベントやキャンペーンの活用でコト提案を推進し、集客力向上を実践してきた。様々なコトの実践から特徴的な体験談を紹介し、コトキュレーターの重要性をお伝えする。

 

一筋縄ではいかない

 “モノ提案からコト提案へ”。近年多くの商業施設が目指している集客の考え方である。有力SCへの出店コストは高額で、モノ余り時代の消費購買意欲は低迷している。その結果、SCに出店するテナントは限られ、全国のSCでテナントが同質化にある。ますます消費者はSCに魅力を感じにくくなり、追い打ちをかけるようにネットショッピングがあっという間に3.2兆円超の市場規模を獲得した。SCは単なる物販店集積のMD構成ではなく、コト寄り業種業態で工夫を試み、娯楽・文化・飲食系のテナント導入を促進する。しかし、面積や条件などが不調で簡単には実現できない。消費者がSCに来る度に館内で楽しいコトが体験できれば、消費者の来館意欲は上がり、支持は確実なものになる。しかし、コトの提案は一筋縄ではいかず、多くのSCが苦労している。

 

モノは試しの精神

 一つ目の事例は「キッズジョブキャンプ」と称する子供の仕事体験イベント。3日間で90人の子供に13店舗の販売や接客体験をさせ評判となった。このSCは大人をターゲットとしているが、キッズ=孫に焦点を当てると父母や祖父母の好感度アップが望めるとの考えで実行。当日は曾祖父母や親戚縁者まで集まり大にぎわいのイベントとなった。テナントの協力体制、子供の募集、150人規模の親子を集めたオリエンテーション開催、3日間の運営など大掛かりな計画だった。イベント会社の見積金額が高額のため、SC運営スタッフ全員が「自分たちでやってみよう」とモノは試しの精神を発揮して実現した新規開拓イベントである。
 成功のポイントは募集方法とテナント側の理解。子供の募集は予算がないため、SCホームページ(HP)に3週間前にアップし多数の応募となった。このSCではHPを大切にし、様々な情報をこまめに載せデザイン管理も明確に行なってきたため閲覧者が多く、短期の募集期間でも日頃の努力が実を結んだ。また、テナントとの関係も、本部は半年ごとの面談や毎月開催の店長会資料の本部送付などで友好関係を作っているので、子供の受け入れを全店が快諾してくれた。そして、最も実績になったのは、SCが外部委託をせず、大仕掛けなコトを自分たちでも動かせるという自信が宿ったことだ。

 

 二つ目の事例。小さなコト提案で店と店を結び付けるショップコラボレーションを多数手掛けた。SCのある館では生鮮三品ゾーンが瞬間集客力の最高のパワースポットであることに目を付け、同館の別ゾーンにテナント「POPUP SHOP」をオープン。コーヒー豆・お茶やワインの試飲や生花販売が生鮮売り場に華を添え、買い物客に好印象となり、後日別ゾーンの店舗に客が行くきっかけとなっている。ある時はビールメーカーと協業で、総菜ゾーンで生ビールのグラスを販売した。「総菜各店のおかずを摘みながら一杯やりたい」という単純な思いから、この総菜ゾーンの“俄ビアホール”を開催。意外と“ウケ”て4日間で1,300杯の生ビールが売れ、記録となった。日本酒やワインの提供も行い、総菜ゾーンの名物になっている。

 

 三つ目は地道な活動事例。ショップスタッフの専門知識や技術を来館者に披露するサロンを、継続的に月1回広場で開催。チョコレートやまとめ髪、ペットマッサージ、時計づくり、模型づくりなどの講座をショップスタッフが講師となり、10~15人の参加で盛り上がっている。回を重ねるごとに充実型となり、すっかり定番のコト提案として常連生徒が育っている。
 SCには“コトのキュレーター”が必要不可欠な存在である。コト提案を実践してわかったのは「これからのSCにはコトの提案ができる人材が必ず必要である。それは博物館におけるキュレーターと同様に、SCのコトの研究や情報収集や企画実現を組織する役割の人材である」ということだ。どのような仕掛けが消費者が面白いと思うツボを押すのか、何を組み合わせると新たなパワーが生まれるのか、どこに行くと専門家や情報が入手できるか。SCの内面を知り、世の中を見渡して面白さのリソースを探す力を持つ人材がいると、コトに気付き起爆させSCのコトエネルギーを発散できる。こんな人材がいれば、自らコトを企画して実行することもでき、外部の専門家を束ねプロデュースすることも可能だ。

 

 昨年後半から「衣料品不況でテナントの出店意欲が薄くなる中、新店導入より既存店の活性化が課題」という大手ディベロッパー側の発言が相次いだ。既存店を生かし、SC内の館ブランディングを強化するために、コトキュレーターの存在は必要不可欠だと確信する。

 

 

(記:島村 美由紀/繊研新聞 Study Room 2017年(平成29年)2月14日(火)掲載)