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2023.09.01

不動産フォーラム21

“3つのNO”が運動習慣を生む 女性限定フィットネス

 
 

●ポツンと一軒家のフィットネスジム 
 女性だけのジムで輪になってマシンのまわり30分で終わりの「カーブス」というフィットネスジムをご存じですか?すでに国内で2,000店舗もあるジムなのでなんとなく知っている、見かけたことがあるという人は少なくないはずです。一般的なスポーツジムとは違い道路沿いのビルの上階や住宅地にポツンと立地するので「こんな所にお客さんが集まるの?」と不思議に思う存在です。女性限定なので男性は知らなくて当然ですが、女性の中でもかなり客層を絞り込んだスタイルで、店舗を閉鎖的につくり中の様子を見えないようにしているので、私には謎な印象があるジムでした。

 

 ある時、郊外団地内を歩いていると女性の出入りが多い店舗に気付きました。「カーブス」です。ここも閉鎖的で中の様子はわからず出入口ドア1枚のみ。勇気をもって入店してみると意外な光景がありました。熱気ムンムンやる気バシバシの大勢の女性たちが円陣を組んで汗を流しているのです。

 
 

●うなずける“3つのNO”
 カーブスはアメリカで生まれたフィットネス形態です。創業者のお母さん糖尿病、高血圧、肥満が原因で亡くなった時、母のような女性が通いやすいクラブをつくろうと思い立ったのがカーブスでした。

 

 No Men(男性なしで異性の目線を気にすることがない)、No Make-up(メイクなしで気軽に通える)、No Mirror(鏡がなく体型を気にせず運動に集中できる)。この3つのNOが基本コンセプトですが、まさに運動習慣のないミドル・シニアの女性心理に直球を投げ込んだ考え方に脱帽です。

 

 店舗内はとても簡素なつくりです。普段着のまま来店し運動できるのでロッカー室なし。シャワーもなし。あるのは数台のマシーンと荷物置きの棚程度。円陣を組んで30分間、筋トレ・有酸素運動・ストレッチの3運動を一回りして終了となるのでお客も気軽、回転もよし、というウィンウィンのビジネスですから、フランチャイズによる事業が国内外で展開され拡大しています。

 

 主力ターゲットはミドル・シニアの専業主婦で50代23%、60代40%、70代20%、その他80代以上の構成だそう。前述の“3つのNO”の気持ちを強く持つ会員層ですが、このターゲットに「やせようと努力してもうまくいかなかった女性たちを気軽に運動へと導く敷居の低いフィットネスジム」として成功したビジネスです。

 
 

●看板女性たちへの共鳴感
 店内に入るとすぐに笑顔のインストラクター女性が声をかけてきました。初回は予約を入れて体験入学をし、お客には場慣れを、ジム側は客の体力チェックのデータとする。2回目以降は営業時間〔10時~19時(13時~15時は休館)土曜10時~13時、日祝休館〕内で自由に30分間サーキットの一員になって利用。月額7,200円+税(1年契約6,200円オンラインレッスンもあり)。着替えの場もないので普段着でどーぞ。との説明でした。

 

「80代の母で大丈夫か?」と尋ねると、「あの花柄ウェアの人は83歳、こっちのグレーパンツの人は89歳。インストラクターがケアしますから」と熱心に説明をしつつ、帰る会員には「○○さんお疲れさま」「✕✕さん気を付けて」と必ず声掛けをしています。親しみやすさや気安さをこうしてつくっているのですね。“迷ったら来る‼”と天井のPOPを発見。「面倒になってもお友達ができるのでおしゃべり気分で来てもらうことが大切」だそう。

 

 店内には貼り紙がいっぱいでたんぱく質摂取方法や心拍数チェック表、痛みのある人へのアドバイス、お体チェック会のお知らせなどが告知されています。混み合うのは開店時の10時と夕方。朝の家事を済ませてくる人や夕方のおつかい前に立ち寄る人が多いそう。

 

 外の看板には50代、60代の少しふくよかなシニア女性がインストラクターの指導でストレッチする写真が使われています。そこには血圧・ひざ・肢・おなか・体重・体力と年配者にグサグサくるワードが列挙されています。

 

 百聞は一見に如かずで、詳しく知ると限定ターゲットの気持ちのシンを食う手法が取り入れられています。「スタッフの声掛けの熱さ」はその表れで、勉強になりました。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2023年9月号掲載)