不動産フォーラム21
2021年お正月 おせち食べましたか?-600億円超市場の可能性-
●巣ごもりなお正月
多難な2020年が終わり不穏な2021年が始まりました。コロナ禍の自粛ムードの中、自宅で静かに過ごすお正月だったのではないでしょうか。
さて皆さんはおせち料理やお雑煮を召し上がりましたか?
すでに遠い昔になってしまった昭和という時代ではお正月が一大イベントでした。年末に正月用の食材の買い出しをし、大掃除で家を整え、正月用の晴れ着を仕立て、我が家では親戚が集まって餅つきまでしていました。特におせちの準備は母の大仕事で、煮しめや黒豆、酢の物、田作りなど、興味津々で手伝ったのは懐かしい思い出です。そして迎えたお正月は、晴れ着にご馳走、来客にお年玉とハレ時間の連続で家族で過ごす特別な時間でした。
それが、いつの頃からかお正月を大イベントという位置から、冬の休日期間という感覚になり、海外旅行や友人との遊びに変わってしまいました。お正月感覚はゼロ。あんなに楽しく手伝ったおせちも自分では作ることがないお正月になってしまいました。
ちなみに2020年楽天インサイトの男女1,000名調査によると、2020年正月におせち料理を食べた人は57.3%、お雑煮を食べた人は55.6%だったそうです。また手作りおせち派は33.7%に対し、購入派は44.2%という結果が出ています。
さて、今年のお正月は自粛による“巣ごもり正月”となったので、おせちもお雑煮も味わいお正月らしい年始を過ごした人は例年より多かったのではないでしょうか。
●おせち市場は600億円超
コロナの影響で小売も厳しい状況が続いていますが、昨年秋以降売り出し早々に完売が続出となったのがおせち料理です。オイシックス・ラ・大地では9月7日に予約開始をしたら1.5倍の注文が集まったり、8月17日に予約開始の森下仁丹薬膳おせちは10月4日で完売となったり、百貨店では例年の20%も売上増加となったそうです。巣ごもり正月が数ヵ月前から新たなマーケットを生み出していたことになります。
2017年富士経済調査ではおせち市場が600億円と発表されていますので、2021年は軽く600億円を超えているはず。おせちの平均単価を15,000円とすると400万個が年末年始の短期間に消費されたことになります。大規模マーケットですね。
昨年秋より百貨店、ホテル、GMS、有名料亭等のおせち料理カタログを集め研究した結果、2021年のおせちは“非接触→一人用”“プチ贅沢”“好きなものだけ”がトレンドでした。おせちの傾向として和食だけではなく中華や洋食なども定番化し、著名料理人監修やお重ごとの複数シェフのコラボレーションなどの工夫もありました。
我が社で一番話題になったのは259,200円の京都吉兆の三段重で、カタログが届いた11月時点ですでに完売のマークがついていました。「どんな人がこのおせちを注文したのだろう?」と社内で話題になりました。
中には発酵学第一人者の教授が監修した発酵おせちや、宮城のおばあちゃんおせち・山形のおばあちゃんおせちというローカル&スローフードを切り口にしたおせちや3,000円~8,000円のペット用おせち、キティやディズニーのキャラクターおせちもあり、各社バラエティ豊かです。コロナを考慮して同内容のお重を2セットor3セット(一人に一重の意味)販売しているメニューもあれば一の重、二の重、三の重を自由に組み合わせできる自由プランおせちもあります。
百貨店関係者に話を聞くと「例年より購入単価はワンランクアップしていて、1万円→1.2万円、1.5万円→2万円というように、外出できない2021年お正月だからおせちで少しだけ贅沢をしてみた」という今年らしい傾向が顕著だったそうです。
●ECでさらなる拡大路線
おせちの世界にもEC化が促進されています。従来は百貨店等へ出向き、カタログやサンプルから選んでいましたが、最近は味と見栄えのクオリティも各社一定水準になったことからネットでも信頼しておせちを注文する消費者が増えたのです。
前述の関係者によると「店頭販売の伸びはせいぜい2~3%程度だが、ECは15~20%の伸びが予測できる」と語っています。ECだと複数店の比較が可能だし家族が一緒に選ぶこともできますから、年に一度のハレの食卓を注文段階から楽しめでGoodです。
さらに、これからのマーケットとして視野に入るのが“おせちギフト”ではないでしょうか。例えば実家へ、親しい友人へ、兄弟姉妹へ。「このお店のおせちが美味しかったのでいなかの親に食べさせたい。独身の子供に送ってあげよう。遠くに住む兄家族に」という需要は大いにありだと考えます。
実は私は某コンビニのおせち展開に目をつけ、小さなお重を数年前に購入したところとても満足できたので、近年は最高ランク(3万円)のコンビニおせちを正月に楽しみにしています。今回はコンビニおせちの良さをK市の知人に贈るため店頭で注文し知人宅の目と鼻の先にある同コンビニで受け取れるよう指定をしたらNG。その場合はK市のコンビニで支払ってくれと言われました。オムニチャンネル化を推進し全国21,000店強の店舗網を持つ某コンビニなのですが残念な話でした。まだおせちの自家需要しか視野にないのですね。
バレンタインや父の日、母の日等のオケージョンイベントの中で最も価格帯が高いのがおせち市場だと思いますが、自家需要のみならずギフトへの広がりは“ハレの日マーケット”の新領域になるはず。今後のおせち市場に注目です。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2021年1月号掲載)