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2015.01.07

不動産フォーラム21

2015年、西南西を向いて福来たる。―習わしの商業化―

 

 2015年、新しい年が始まりました。近頃は新年を祝うしきたりや習わしもすっかり忘れてしまいがちになっていますが、子供の頃は年越しそばを食べ、除夜の鐘を聞きつつ初詣に出かけ、若水を汲み、お屠蘇をいただき、年始回りで来客を迎え、子供たちが集まって書初め大会。そして七草粥を作り、我が家では鏡開きでお汁粉を食べ、節分大会でお寺に豆拾いに行くまでが新年の習わしでした。書き出してみると、年末から立春の1ヶ月間で密なしきたりや行事をこなしていたものです。当時の大人は多忙な年の始めだったのでしょうが、自分が大人になると何一つしきたりを継承していません。お正月を単なる冬休みにしてしまい海外でバケーション。お雑煮すら食べない自分に気づいて愕然としてしまいます。これはいかん!!ですね。

 

 ところが最近、ちょっと新しい習わしに注目しています。節分の日の恵方巻きです。ある年の節分に関西出身の知人宅で恵方巻きパーティーに招かれたのがきっかけですが、関東人にはまったく縁のない「節分に日に恵方に向かって巻き寿司を無言で丸かじりし福を招く」という習わしですが、関西人にとっては「昔からやっていた!」という当然の習わしが関東人には「初耳!?」というほど、今の時代にかなりの地域差があって面白いと思いました。

 この地域差について、先日、寿司業界の人にその違いが浮き彫りになる話を聞きました。節分の日に大阪の百貨店の食品売り場にある米飯類を扱う店では、500万円~600万円の売上(当然のことに1日の売上でせいぜい冷ケース2本程度の寿司屋やおにぎり屋の場合です)が当たり前で、よく売る店では800万円、最悪の売上の店で200万円程度だそうです。すさまじい恵方巻き信仰ぶりですね。大阪百貨店では以前より節分の恵方巻きに注力してきたわけですが、東京から関西に進出した百貨店はこの習わしに慣れていないので、「一応、基本になる一般商品のおにぎりやお寿司はキチンとやってください」と米飯店に指示をだすのだそうですが、あまりの恵方巻き旋風に度肝を抜かれ、たいがいは進出2年目で「ともかく節分は恵方巻きで!」に変わるのが常だそうです。さらに節分が土日にかかると売上はガタっと下がるのですが、なぜか月、金でも下がり気味、火・水・木だと順調に売上はのびるので、今年からの3年間は寿司業界にとっては“良い曜日のめぐり”のビジネスチャンスだそうです。

 

 話を戻して、恵方巻きの地域差は、店の売上が物語るところで、1998年にセブンイレブンが恵方巻きを全国発売してその存在が知られるようになったのは有名なエピソードですが、ようやく近年、関東圏の百貨店の米飯類売場で恵方巻きベスト売上が250万円を計上するようになり、関西のワースト売上店とならぶようになってきたそう。まだまだ差は激しいですね。特に東京では山手線の池袋―品川間の東京駅側が×。新宿側が○。大宮、千葉、横浜はまずまずなので、恵方巻き売上で関西出身者在住の分布状況がわかると言われています。しきたりや習わしの話から始めたつもりがついついビジネスチャンスの話になってしまいましたが、恵方巻きマーケットはまだまだ関東圏において拡大の余地はある模様です。

 

 では、関西では習わしになっている恵方巻きはいつから始まったのでしょうか。調べてみると江戸末期から大阪商人の間で商売繁盛を祈る習慣としてあったようですが、昭和初期に鮓組合や海苔協会の販売促進活動によって広まり定着したようです。なるほど海苔協会だから“太巻き1本丸かじり”なのですね。女子的には1本を丸かじりに違和感があったのですが、この理由でわかりました。

 

 このごろはロールケーキ等の菓子類でも恵方巻きがテーマになっていますが、大阪で始まった開運習わしが、今ではバレンタインやハロウィンと同じように商業的イベントとしてビジネスチャンスとして活用し、展開されるのがまさに現代なのですね。

 ちなみに2015年の恵方は「西南西」です!

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2015年1月号掲載)