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2020.03.02

不動産フォーラム21

魅力的な街がパンクする?!-世界を13億人が移動する時代のオーバーツーリズム-

  

 “オーバーツーリズム”という言葉をご存じですか。特定の観光地にキャパシティ以上の観光客が押し寄せ、街中の混乱や交通渋滞、トイレ不足、騒音やゴミ問題、環境破壊を招き地域住民と観光客との間で起きているトラブルのことを示す言葉です。
 先日、この言葉を目の当たりにする体験をしました。

  

●バルセロナが厳しくなる事情
 10年ぶりにバルセロナへ行ってきました。
 バルセロナオリンピック(1992年)の開催で街が整備されEU統合により経済活性化がなされ地中海性気候の温暖な地で、何より見るべき名所がふんだんにある観光都市というむかし訪問した時の好印象から今回の訪問を楽しみにしていたのですが、街の様子が微妙に違っていました。

 
 どこまで出来上がったかとワクワクするサクラダファミリアへは地元知人の朝一の待ち合わせ時間指定で出かけました。以前とは状況が違い入場には狭い限定ゲートから入り、空港並みの荷物やボディチェックを受けなければなりません。厳しいです。団体が1ヶ所に長く留まっていると怒られそうなので、客はそそくさと行動をしています。建築工事は予想以上に進行し大聖堂内部も光が降り注いで明るくなり2026年完成予定は実現する期待がをき印象深いものでしたが、10年前のゆったりした空気感はなくなっていました。知人からは「グエル公園も明日の朝一だから遅刻すると入場できないよ」とくぎを刺されます。
 「バルセロナは変わっちゃったね。地中海の穏やかさが消えている…。」と言うと、知人から「オーバーツーリズムで観光客が市民生活を脅かす状況となったため、複数の観光スポットは事前予約が必要になった。今回も1ヶ月前に予約した。地域の混乱を避けるためだ。」と説明されました。

 

 人口160万人のバルセロナ市には年間3,200万人が観光に訪れ1990年に173万人(ホテル数118)だった宿泊者も2017年には888万人(ホテル数423)と5倍以上の増加で、主要観光地が集中する旧市街地区に集まっています。交通渋滞や騒音、不動産や家賃の急騰、違法民泊の増加、環境破壊が街に危機をもたらし、2015年からオーバーツーリズム対策を行政主導により開始したそうです。
 例えばホテルランク別観光税の徴収、団体客人数制限、主要観光施設のオンライン予約時間制限、入場料徴収、ホテル・商業施設の建設制限などです。一見厳しい規制のようですが、モラルやマナーの異なる外国人観光客と安心な市民生活のバランスをとるためには必要な策ではないかと現地を見て感じました。

 

 こんな話をしながら目抜き通りのランブラ通りに出ると新型ウィルス発生後の平日午後でもかなりの人通りがあります。ある調査によると年間1億人のランブラ通行人数のうち観光客8割、地元住民2割と発表されているので、なんだか興ざめの散歩となり、昔の穏やかなバルセロナを見ていたことがラッキーに思えました。

 
 

●日本にもあるオーバーツーリズム
 実は、オーバーツーリズムは日本にとっても深刻な問題です。皆さんはこの数年間の京都の変化をご存知でしょうか。私は時々京都へ行きますが、公共交通機関(バスや地下鉄)は、大きなキャリーケースを引いたインバウンドが大勢乗車して、時間もかかり市民は肩身の狭い思いをしています。バス停で待つ観光客がスナックやドリンク容器はポイ捨て、目抜き通りの四条通はドラッグストアだらけで観光客が多すぎまっすぐ歩くこともできません。「これでは市民がまともな生活ができないですよ。」と乗ったタクシードライバーはぼやきますが、本当に京都が変わってしまったと痛感するほどです。京都も何らかの観光制限対策を急がなければなりません。

 

 移動費用の低廉化、インターネット普及による旅行手続きの円滑化、先進国・新興国の経済発展における中間層の活動活発等によって1950年には2,500万人程度だった国境を超える観光客は2017年で13億人(世界人口75億人)を超え、2030年までには年3.3%の成長を遂げると予測されています。観光は大きな経済力と雇用を生み出す利点がありますが、それが過ぎると地域住民の生活を圧迫するマイナスパワーを持っています。気軽に世界中を移動できる時代になったからこそ、その便利さがもたらす弊害についても考えていかなければなりません。バルセロナや京都がその魅力を失わないために。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2020年3月号掲載)