MAGAZINE

2011.02.03

繊研新聞

“集客磁力”を持つ「ハッピー雑貨」に期待

 

 長引く景気低迷でどの業種業態も精彩を失いつつあるが、消費者の視線をとらえ、足を止めさせているショップ群に“雑貨業態”がある。この1~2年に新規オープンした商業施設の中でも、魅力的で光ったゾーン構成だと感じた売場には、必ず面白い雑貨ショップが複数店導入され、男女・世代を問わない客でにぎわっている。

 

 例えば、09年3月に福岡天神に新規開業した「福岡パルコ」では、従来の都心立地型パルコで5割強を占める衣料品比率を3割強に抑え、雑貨業態を積極的に導入し、1階では約7割、2階では4割、3階では5割と、低層階でも雑貨比率を高めている。

 

 天神市場では極めて後発進出となったパルコは、主力アパレルテナントが既に他施設に出店済みであることや、中島区画が生まれやすい旧百貨店建物の再利用という施設開発条件もあり、雑貨業態活用の必然があったと予測されるが、ユニセックス切り品で楽しめる1階のステーショナリー、アロマ、服飾雑貨ショップ群や4階のコスメ・美容雑貨・アクセサリー・ランジェリーなどから成る「ビューティアップゲートゾーン」は女心をくすぐる工夫があり、フロアの中でもエネルギーを放っている。

 

 また09年11月にリニューアルオープンした「ペリエ千葉」の「ペリエ2」は、駅コンコースから直結するエントランスゾーンを化粧・生活・服飾雑貨などのショップ群8店舗で構成、さらに隣接するゾーンでもアパレル店舗に文化・服飾・生活雑貨店を上手に絡ませたテナント構成で客の関心を引き付け、フロアの奥へ客を呼び込む回遊促進型のリニューアルを成功させている。

 

 さらにもう1施設、10年3月に東京駅構内にオープンした「エキュート東京」では、エキュートのおなじみMDである惣菜や菓子の店舗群に対し、袋物や手ぬぐい、風呂敷などを専門的に扱う和雑貨ショップや地方物産をイベンタブルに扱うショップの5店舗で特色あるゾーンを構成し、スイーツの買物ついでの客足をさらに時間滞留させて、おサイフのひもを緩ませるというバラエティーショッピングの楽しみを提供している。

 

 どうやら、従来型の売り場に面白みを感じなくなってしまった不景気下の客にとって「オヤッ」「アレッ」という消費者の心のツボを押し、集客という磁力を持つ業態が“雑貨”のようである。

 

“ハッピー雑貨”という新分野

 前述した輝いている雑貨ショップ群は、従来の雑貨業態とは一線を画する新しい雑貨ショップ群で、これを“ハッピー雑貨”と称して、今後の展開に期待が持てる新分野業態と私は予測している。

 

 従来の雑貨業態は、商品分類によるカテゴリーに分けられた雑貨業態が主であった。例えば、テーブルウェアやキッチン周り商品を集めた生活雑貨店、文具・デスクトップ商品を集めたステーショナリーショップ、ファブリックやリネンやインテリア小物を集めたインテリア雑貨というように、私たちの生活のある場所、ある場面に即した商品群でカテゴリーが分けられ雑貨店が成り立っていた。

 

 しかし“ハッピー雑貨”はこの従来型のカテゴリーの枠を超えて、その店の自由な発想と創造性の中から楽しそう・面白そう・気持ちよさそうと思える商品群をランダムに編集した“やわらかな業態”であり、従来カテゴリー枠から自由な発想編集による新分野雑貨ショップ群というくくりで考えられている。

 

 <別図>をご覧いただきたい。近年、消費者に評価されている“ハッピー雑貨ショップ”の一覧である。どの店も編集切り口の軸を持っており、その軸を核にしながらコラボレーション領域を拡げている。例えば、服飾雑貨を軸にしながらステーショナリー、アロマ、化粧雑貨、生活雑貨など・・・をコラボして、11月に東京駅にオープンした「エブリデイ・バイ・コレックス・イン」(アバハウスインターナショナル)、インテリア雑貨を軸とし、アクセサリー、バッグなどの服飾雑貨や生活雑貨を扱い4月にアトレ吉祥寺にオープンした「トランジット」(ぶんご)中目黒のホテルクラスカがセレクトした器類の生活雑貨を軸にアパレルや服飾雑貨を展開する「クラスカギャラリーDO」(コンシーズ)、オーガニックコスメを軸に食品や生活雑貨を扱う「テラクオーレ・コレッツィオーネ」(イデアインターナショナル)というように、それぞれの店は主軸とコラボレーション領域の広げ方で、その店のこだわりを個性的にMDで表現している。

 

 この結果、客はその店から発散されるある種のオーラに導かれ入店。様々なカテゴリーの編集型商品を手に取り、「ちょっと温かな気分」になったり、「ちょっと知的な気分」になったり、「ちょっとうれしい気分」になったり、「ちょっと笑っちゃう気分」になったりと、従来カテゴリー型雑貨ショップでは味わえなかった気分高揚(テンションの高まり)を消費者にもたらすのが“ハッピー雑貨”の魅力であり、見ていこう、寄っていこうという集客の磁力が働く。

 

 <別図>の店はどこも「ハッピー磁力」のパワースポットである。

 

第3の雑貨進化期

 近年の商業史のなかで生活雑貨を中心に業態動向を考察してみると、現在は第3進化期に突入しているといえよう。

 

 第1期(~1980年)の高度経済成長期までは消費者の欲求が衣・食の領域が主力で住に対する関心は薄く、生活・インテリア雑貨の業種業態の幅は極めて狭かった。今では死語となってしまった婚礼家具は百貨店の主力商品であり、「家具は一生もの」という価値感覚で市場が形成され、百貨店や家具店が買い場であった。また台所用品や食器類も百貨店や地域商店街の金物屋や瀬戸物屋と呼ばれた専門店が主たる買い場であり、その他では文具店・化粧品店・手芸店というような商品分類に即した専門店が街の中に存在し、消費者の雑貨感覚は今とは異なる生活必需品的認識であったように思う。

 その流れは80年代から変化をし、78年渋谷東急ハンズ開店、83年無印良品1号店登場(青山店)、87年ロフト開店、92年フランフラン1号店誕生(天王洲アイル店)というステージに移り、現在の40代、50代、60代の消費者の一人暮らしの空間や新婚のスイートホーム、家族形成期のマイホーム演出などに大きな影響力を持つ店舗となっただけではなく、居住空間のみならず、バッグの中身や化粧ポーチの中身や冷蔵庫の中身にも変化をもたらしていった。

 

 それは当然消費者の欲求が衣食が満ち足りて住への関心を持つにいたった証しでもあり、衣食においても主要アイテムに対しそれを飾る付属物や補助物、例えば服飾品やこだわりの食器類などを求める欲求の深みが出てきたからこそ、90年代をリードしてきた無印良品やロフト、東急ハンズ、フランフランという店舗の拡大につながった。あわせて、商品バリエーション(アイテム・デザイン・カラー)も第1期には考えられないほどの豊かさを生み、また高額品から廉価品までの幅広いプライスレンジの広がりが多くの人々の生活の隅々を雑貨領域として進化させていった。

 

 さて、今では無印良品・ロフト・フランフラン・東急ハンズは、日本の小売業の代表格であり定番店舗となっていることは言うまでもないが、第3期の雑貨進化期は現在の20代・30代が主力になり、それに40代以上の雑貨の面白さを第2期で体験した世代が追随して新しいステージへと雑貨文化を押し上げようとする動きに他ならない。

 

 現20代・30代は、生まれた時から前述の定番店舗を認知して育ち、無印良品の三輪車に乗り、ロフトで初コスメを買い、東急ハンズで友人へのギフトを探した世代である。この世代にとって雑貨は特別なアイテムではなく、ファッションショップやスイーツショップ以上に身近ななくてはならないお楽しみ業態であり、前述の統一テイスト・フルアイテム品揃え型の定番店舗に対し、編集の個性が発見の喜びを生む“ハッピー雑貨”店舗群への支持となり、相互に補完関係の中で、新たな雑貨文化の進化をもたらしている。

 

雑貨の磁力

 一昨年、郊外SCで来店客の入店から退店までを追う追跡調査をおこない、平休日合計で約400サンプルの客動向をリサーチしたところ、年齢問わず女性客の立ち寄り率が極めて高い店舗が館内に複数ある雑貨業種で、生活・インテリア・服飾・文化・趣味雑貨などすべてに多くの女性たちが「チョッと寄っていこう」「チラッと見ていこう」という消費行動をとっていた。

 

 この動きは単独の場合は当然として、数人グループの場合でもカップルの場合でも、「チョッと」「チラッと」の気持ちが雑貨では相互の許可を求めやすく、相手も同じ気分になれるまさに“ハッピー”な存在であることが検証できた。

 

 店内での客の様子を見ていると一つの商品から相互の会話が広がり、購入に結びつくケースも多い。これが衣料品(衣類・靴・バッグ)であったら、不景気だ、タンス在庫にある、組み合わせを考えるのが面倒、同行友人と趣味が違う・・・などという気分になり、入店に至りにくい結果となった。

 

 また、当社が業態開発を手がけた高速道路のサービスエリア店舗と地方温泉地の観光ホテルのみやげ売り場で、従来扱いのない服飾・生活・文化などのハッピー雑貨郡を東京から仕入れてコーナー展開しているが、数年間にわたり極めて安定的な実績をあげている。

 

 開発前は「高速道路上でアクセサリーやアロマが売れるのか」「温泉ホテルでマグカップや子供の玩具が売れるのか」と賛否両論があったが、現代の消費者はいつでもどこでも、きれい・かわいい・面白い・楽しい物には、必ず反応するという確信からスタートさせたところ、見事確信は現実となった。サービスエリアだから、観光地だからという旧来的な消費動向の枠のはめ方を大きく超越させるほど、消費者の雑貨への認知力は高かった。

 

 半面、事業者にとって“ハッピー雑貨”の磁力を強力に保つためには業態開発力以上に高い店舗管理能力が問われる業態である。なぜなら商品アイテムが多く細かいことから、仕入れ先開拓の苦労と在庫管理エネルギーがかなりかかり、メーカーや問屋での欠品や製造中止が頻繁でリピートの確実性が弱く、常にフレッシュな売り場を作り守り続ける苦労はかなりの負担となる業態分野だ。また商品が細かいため商品をより魅力的に見せるためのVP・VMDを売り場で研究開発する独自のテクニックが店舗スタッフに要求される。これらの店舗現場の日々の努力あってこその“ハッピー雑貨ショップ”の磁力の強さが保たれる業態である。

 

 今後、“ハッピー雑貨”分野の成長は大いに期待できるところだが、「パス・ザ・バトン」「ラブネイチャーチャリティー」のようなお互いに幸せになろうというチャリティーシステムが組み込まれたショップや、「ニコアンド」「スタジオクリップ」のような生活・インテリア・コスメ雑貨とアパレルが同じ比較でスタイル形成をしているようなライフ・コラボレーション・ショップ、また男性を主力ターゲットとした「クオミスト」のような領域などが、ますますハッピー度合いを高めて市場の注目を集めていくのではないか。消費者のハッピーを刺激する業態が街にあふれることを期待する。

 

 

(記:島村美由紀/2011年2月3日 繊研新聞掲載)

<左:福岡パルコ>
<左中:別図>
<右中:エブリデイ・バイ・コレックス・イン>
<右:テラクオーレコレツィオーネ>