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開拓検討を!ミドルレディの活躍ステージ
宮崎県にある延岡市は人口が11万4千人の町です。宮崎市から特急で70分と県の最北端に位置するややイメージが薄い町ですが、大正期より工業都市として栄え海や山に囲まれ多くの河川が市内を流れ豊かな農産物に恵まれた温暖な気候の平和な町です。
3月上旬、初めて延岡に行き町の穏やかさを満喫しながらある気付きを得たのでご紹介したいと思います。
●“延岡おんな”の好感度
平日の昼、延岡駅に到着した私たちはまずは腹ごしらえと飲食店を探しましたが、駅前は寂しく商店街はシャッター通りと化していて人通りがありません。ようやく駅前再開発ビル1階にある食堂(オフィスビルのため店が目立たない)を見つけ入店。店内は客がいなくガランとしています。この立地では集客が難しいのだろうと思いましたが、12時を過ぎると瞬く間に満席となりました。
接客係は40代後半の女性でほど良いメイクにフワッとしたヘアスタイルと花柄エプロンが似合っている人でした。地元グルメを食べようと私たちが「辛いのか?量は多いのか?」など質問をすると詳しく説明をしてくれます。辛さ調整を頼むと料理長(30代男性)に確認してくれこちらが旅人だと気付いて満席の中でも丁寧なやりとりをしてくれました。「感じいいねー。東京だったら舌打ちされてるよ」が私たちの食後の感想です。
次に宿泊予定のホテルに向かいました。このホテルは他都市で利用経験がある全国チェーンです。時間が早いためか入口ガラスドアをスタッフが熱心に磨いています。私たちに気付くとサッと扉を開け「いらっしゃいませ」の元気な挨拶。2名のフロントスタッフも旅行支援の手続きやチェックイン業務などテキパキと対応し極めてスムーズでした。
後に気付いたのですがホテルで会った3名のスタッフはいずれも40代~50代の女性たち。他都市同ホテルではスローな若いスタッフが主力なので延岡の年季の入ったテキパキ対応に気分がよくなりました。
夜になり地元の居酒屋に行きましたがこの店でも50代女性が細かな注文に対応してくれます。翌日の昼のファミレスでは人手不足らしく席は空いているものの下膳が間に合っていませんが、フロアでは3~4名のミドルエイジの女性スタッフが忙しそうに働いており、私たちを見て遠くから「いらっしゃいませ。お好きな席に」と大きな声を掛けてくれます。
店には杖をついたおばあちゃん6人の女子会が開かれていました。メニューを何にするか、オーダーしたのに気分が変わって再オーダー、トイレの帰りに席が分からず迷子になるなどてんやわんやの騒ぎですが、さすがは人生経験が長い女性スタッフ。上手におばあちゃんを誘導していきます。若い人だったらお手上げだろうさばきの達人でした。
その後立ち寄った市内の商業施設やファッションショップでもミドルエイジの女性たちの働く姿を多く見かけ気の利いた接客を受けました。
延岡は他都市に比べミドルエイジの女性たちが大活躍している町なのです。
●生産年齢人口ゾーンは見直しの時?
実は延岡市は1980年をピークに人口が減少しており2040年には約9万人まで少なくなると推計されています。また、高齢化の速度が速く人口に占める65歳以上の比率が2020年時点で全国平均28.8%に対して宮崎県平均32.6%と高く、延岡市は34.7%になっており、年少人口(14歳未満の比率)も減少し少子高齢化が全国より早く進行しています。
町の人たちは「若者がみんな出て行ってしまう」と嘆きます。その原因は高等教育機関が少なく(私立大1校のみ)高校を卒業すると若者は市外県外へ流出し町には残りにくい点にあります。そのため、大都市ではコンビニや居酒屋など学生や20~30代の労働市場が形成されているステージが延岡では飲食やサービス分野においてミドルエイジ女性が働き手として重要視されており活躍しているのです。私が目撃したのはそんな女性たちの姿でした。
日本は2004年をピークに急激な人口減少傾向を辿り高齢化が加速していますが、そろそろ生産年齢人口を現15歳~64歳から新18歳~70歳程度に変えていく時期にきているように思えます。延岡がそのよい事例ではないでしょうか。
多くの都市では若者の労働力不足に悩む声があがっている昨今、延岡ではその市場でミドルエイジの女性たちが働きその女性の人生キャリアを生かした仕事ぶりが客には好印象で受け止められているのです。人口が少なくなる若年人口ゾーンをあてにしないで教育費や老後資金、または自分のこづかいを稼ぎたいという、子育てが一段落した女性層や健康を保ち元気な60代男女の活躍の場が日本では必要とされ創造されるべき時を迎えているのではないかと思います。
この話を飲食店経営者の知人にしたところ人手不足の折、50~60代の応募は多くあるそうですが若者なら1回で覚えるレジ業務を中高年は1ヶ月たっても習得できない。がんばると言いつつ自分はこの程度とたかをくくっている感があるのだそうです。これも困った話ですが、中高年の時代対応のための職業訓練システム導入は必要かもしれません。
多少ズレた話かもしれませんが、2023年アカデミー賞主演女優賞のミシェル・ヨーさん(61歳)が授賞式で「女性のみなさん、誰もみなさんのことを旬を過ぎたなどと言わせてはなりません」とスピーチし会場も私も拍手喝采でした。まさにその通りでSDGS時代、若~老まで女性活躍ステージは無限大であるべきだと延岡の体験から思いました。
(記:島村 美由紀/販売士 第49号(令和5年6月10日発行)女性視点の店づくり㉞掲載掲載)