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2018.08.08

日経MJ

重厚な造り 心地よさ生む -ランドマークタワー25周年-

 

 横浜ランドマークタワーが開業25年を迎えた。バブルの香りが残る1990年代前半に完成した商業施設は、重厚でゴージャスな買い物空間を今も保っている。リニューアルを前提として造りを簡素にするショッピングセンターが主流となるなか、改めて浮かび上がるデザインの魅力を探った。

 

5層吹き抜け非日常を演出

 「買う物がなくとも友人とお茶を飲みに来た」「何となく季節をウィンドーから感じたくて」。横浜・みなとみらい地区にそびえ立つ横浜ランドマークタワーを訪れる人達から、こんな声が聞こえてくる。
 この10年で全国658の新しい商業施設が誕生した。しかし5層吹き抜けで横に200m続くぜいたくなモールがある施設は珍しい。簡単に改装ができるように建設費を抑えた最近の流れとは異なる。「ランドマークプラザ」と名付けたショッピングモールは開業から25年を経て、重みと高級感を併せ持つ独特な雰囲気を醸しだす。
 吹き抜けを挟んだ両サイドでは2~3階のベランダが吹き抜けに凹凸を生み出し、低層から見上げると小さなステージのように見える。人がたたずんでいると上がってみようという気にさせる。4~5階の通路は幅が狭く、逆に上から見下ろすとおとぎの国をのぞき見たような気分にさせる。
 空間を特徴付けるのが、力強い列柱と細やかなデザインの組み合わせだ。スタンド照明や手すりの金物の上質感、遊び心があるスパイラルエスカレーター、1階広場の聖堂のような石のデザイン……。細部にも思いを込めていたことがうかがえる。
 避難動線を店の裏に確保したため避難扉などを表に出さず、スッキリした店の正面が次から次に見えてくる。こうした様々な視線の工夫が歩くリズムに面白みを演出する。壮大な空間にもかかわらず、人間の身体に即したヒューマンスケールで“街歩き”を楽しめる。
 みなとみらい地区の開発は1983年に始まった。桜木町駅からパシフィコ横浜までを歩いてつなぐネットワークを計画。その一部がランドマークプラザであり、「単体商業施設ではなく、街歩きを楽しみながら通り抜けて隣の街区へ人々をつなぐパブリックな空間を目指した」と三菱地所設計ユニットリーダーの永田康明さんは当初からの狙いを話す。
 もちろん時代の後押しもあった。右肩上がりの経済環境で、東京都心とは別の拠点を作ろうと官民挙げて壮大な計画が打ち上がる。オフィスにホテル、商業施設を組み合わせたランドマークタワーは総工費2700億円。高さ296mと当時として日本で最も高く、日本一、そして世界一を目指した熱のこもったものだった。

 

豊かな空間が人の心つかむ

 神奈川県に暮らす人にとって横浜のウォーターフロントは特別な存在だ。子供の頃から山下公園で遊び、氷川丸を見学、食事は中華街で……。買い物だけが目的なら横浜駅周辺が便利だが、女友達や夫婦、母娘でゆっくりとショッピングやおしゃべりを楽しみたい気分なら、みなとみらい地区に足が向く。特に大人層にはランドマークのぜいたくな空間が上質な居心地を感じさせてくれる。
 この価値は来街者だけのものではない。三菱地所横浜支店ユニットリーダーの篠島久明さんは「ここを第2の本店と位置付け、ブランディングのために店舗を構えるテナントもある」と語る。
 ティファニーやTASAKI、スタージュエリー、ミキモトといった宝飾品ブランドが店を構え、最近はアジアで人気の台湾の点心レストラン、鼎泰豐(ディンタイフォン)が日本最大店を開いたばかりだ。
 横浜スカーフや葉山シャツ、ランドセル専門店といった歴史と文化のある横浜らしい技術やデザインを売る店も並ぶ。商業施設としての奥行きにつながっている。
 ネット通販が急激に進化し実店舗に客を呼び込むのが難しくなっている。25年という年月を経たからこそ、ランドマークタワーは空間の豊かさでショッピングの娯楽性を訴え続けている。

 

 

(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2018年(平成30年)8月8日(水)掲載)