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2022.04.05

繊研新聞

都心SCは衣に挑戦せよ! -創造性あるファッションをけん引するSCに-

  

 「カッコいい服を見たい」「最新モードに触れたい」こんな欲求の声が聞かれる。久しく私たちは創造性にあふれたファッションを身近に見るチャンスを失っている。14年頃に「ノームコア」という究極の普通がトレンドとなり「クールビズ・ウォームビズ」が浸透し「スポーツファッション」が高機能素材の進化によりカジュアルで安価な街着となり「ラクチン」の合言葉で無理なく気持ち良いが服への意識になっていった。

 
 

画一化・等質化リスク

 家計調査(総務省)では衣料品・履物の支出が00年の1万2935円(構成比5.0%)から19年に1万2935円(4.0%)で減少しファッションを軽視する意識変化が以前より始まっていたことがわかる。

 

 そこにコロナ禍がアパレル業界を直撃した。外出自粛、大規模イベント中止、冠婚葬祭や旅行の延期などの交流や社交という人のつながりが途絶え、衣料品購入のトリガーを消滅させ、百貨店や商業施設が休館・時短に追い込まれた。

 

 SC業界では、前述の消費者意識変化がテナント構成比に表れ、17年にファッション・ファッション雑貨が30.1%だったものが21年には26.5%に下落(民間調査会社発表)している。当社のリーシング業務でも18年頃を境にアパレルテナントの新業態が無くなり、新ショップがあっても名は新・商品は旧という変化なき店で、来館者に新しいファッションシーンを提案できず苦慮する中でコロナ禍に突入した。

  

 いま都心SCと郊外SCの質や感度やMD構成に差がなくなり、等質化が始まっている。その原因はアパレルの売り上げ低迷や退店が相次ぎ、空き区画にインテリアや雑貨の大小規模のテナント、アウトドアやスポーツショップ、コト消費としてのスクールやヘルス&ビューティ系のサービス業態、子供向けアミューズメントというお決まりパターンにどの館も流れている。一見するとアパレルの代替にバラエティーがありそうだが、出店可能な事業者が少ないため、似たMDやテナント構成になり館の個性が失われている。

 

 中狭域商圏の郊外SCであれば、巣ごもり消費の最寄りモノ&コトの充実となり画一化があっても問題はない。しかし、広域商圏の都心SCでは郊外と大差のない感度のMDと店舗構成で都心商業のアイデンティティが失われ、旬や新を求める来館者の期待に応えられず支持力が弱まってしまう。コロナ禍では郊外SCのダメージは少なく、人流がなくなった都心SCの売上ダメージが大で回復には時間を要する。等質化のリスクを抱えた都心SCは潮目を変える新たなチャレンジをすべき時を迎えている。

 
 

都心SCだからこそ
 今春、気付くことがあった。「開業時から続けるファッションを軸にした発信をさらに強める」と宣言し大型改装を計画するSC。国内クリエーターの自主編集売り場を開設するSC。2年振りに新作ファッションの打出しイベントを全館で取組む駅ビル。少数ながら都心SCが動き出そうとする感がある。

 

 SCは小売り・飲食・サービスなど店舗のプラットフォームだ。その時代の生活様式を表すコンテンツ(店)を組み合わせ立地や方針に沿って人々に提案することが役割である。広域集客の都心で代表的トップSCは知名度を背景に時代への旬や鮮の強い提案力を発揮できる存在だ。かつてトップSCはファッションのプラットフォームだった。時代やシーズンの先端ファッションを揃えた館に人々は勇んで出掛け、館で感性を磨くほどSCがファッションのけん引役であった。

 

 いまSC業界に欠落しているのは「ファッションの創造性を提案する力」ではなか。広域から人を集め発信力を持つ都心SCだからこそファッションのプラットフォームという役割が可能で再度構築する時である。

 

 では、SCがどのような仕掛けでファッションシーンを作り出すのか、それは同時多発的ないくつかの動きを起こす工夫だと考える。◎館の目立つスペースで短期のクリエーターや新興ブランドによるポップアップ展開を継続◎館内複数個所にインキュベーション区画を導入し半年~1年のアパレルブランド、クリエーターブランドのトライアル店舗展開◎シーズンごとのファッションイベント開催◎デザイナーセレクトショップの直営店事業

 

 これらがディベロッパーとして実施できる例である。テナントへの呼びかけとしては◎大手セレクトショップの再構築(自社商品多量の既存セレクトショップ対応)◎大手アパレルへの新業態要請◎市井の本格セレクトショップの発掘。

 

 これらは地道な活動として重要だ。また、注目されるZ世代にはファッション集積ではなく異カテゴリーとのカジュアルでクールなミクストユースMDの演出方法の研究が必須となる。どれもコロナ前の経済効率重視の賃料体系を見直しブランドを育てるパトロネージュ視線が必要となる。

 
 
(記:島村 美由紀/繊研新聞 Study Room 2022年(令和4年)4月5日(火)掲載)