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2025.05.28

日経MJ

郊外SC 穏やかな時間-横浜、相鉄「ソラトス」開業1年へ-

  

 相鉄いずみの線ゆめが丘駅前に大型商業施設「ゆめが丘ソラトス」(横浜市)が2024年7月に開業してから集客が順調だ。渋谷から直通1時間、横浜から30分と利便性が高く、若いファミリー層から人気の郊外エリアだ。子供が遊べるアミューズメント機能などを充実させ、身近なお出掛け先となっている。

 
 

3層吹き抜け、あずまやも

 ソラトスの店舗面積は42,700㎡で、129店舗が入居している。相鉄グループの相鉄アーバンクリエイツ(横浜市)相鉄ビルマネジメント(同)が事業を手掛ける。

 

 ソラトスで最も印象深いのは、館の中央にある3層吹き抜け空間(天井高20m、奥行き18m、幅24m)で、インパクトあるデザインが来館者をひき付ける。エスカレーターで2階に上がると交流広場があり、トップライトから光が降り注ぎ、回転するシーリングファンの影が床に映し出され美しい。3階へのエスカレーターは意図的に左へ傾けて配置されており、視線を上に誘導させる機能だけでなく、空間デザインの遊び要素にもなっている。

 

 面白いのは吹き抜けの3階にモダンなあずまやが突き出るように設置され、空間のシンボルとして個性を放っている。ここは「ソラトスルーム」というイベントスペースで、ワークショップなどで利用する。一般的にショッピングセンター(SC)ではフロアの隅に配置されがちな機能を館の中心に目立たせるように設置することで、誰もが分かりやすい「我が街の我が家」をシンボル化した。

 

 館内通路はスケルトンの天井を随所で生かし、天井高5m強の快適性を生んでいる。パブリックスペースはグレートーンの控えめな色調だ。照明も柔らかなスポットライトを活用し落ち着いた雰囲気を醸し出している。

  

 これらのデザイン効果が相まってか、若いファミリー層からシニアカップルまで幅広い客層の来館者が穏やかに買い物を楽しむ姿が目立つ。店舗前の行列も整然とし、館内がきれいに使われている。館内には休憩スペースが多く設けられているが、寝そべったり、飲食したりする客の姿はあまり見かけない。

 

 相鉄ビルマネジメントの公塚順一ソラトス館長は「開業以来、他の施設に比べて苦情やトラブルが少ない」と話す。予想以上にマナーのいい客が多いことを実感しているそうだ。

 

 ソラトスを訪れた女性客によると、横浜駅周辺や都心へのショッピングにも頻繁に出掛けているようだ。また鎌倉や湘南も10km圏内にあるため気軽に遊びに行くという。いわゆる「消費・体験慣れ」をし、質やトレンドを見極められる人が商圏内に多く居住している。ソラトスから横浜市や藤沢市の3km圏内に住む約50万人が日常使いとして来館し、週末には10km圏内からの来館者もいる。

 

 同施設は循環型社会を目指し、太陽光パネルの設置や食用油の再生、生ごみの堆肥化などを実践している。衣料品回収にも取り組み、10㎏の容量の回収ボックスを館内に設置。1日に何度も満杯になる日もあるほど利用が進んでいる。また館内には自動配送ロボットを導入している。顧客がアプリで注文した商品を店舗から館内の指定場所に届け、大活躍している。

 

 ソラトスのコンセプトは「Dear Life, Dear Local」だ。公塚館長は「自然豊かな地に満足な自分らしい毎日を食・アクティビティー・教育と文化で提供する交流型集客施設を目指す」と話す。相鉄グループはこれまで横浜駅の商業施設「相鉄ジョイナス」や「ジョイナステラス二俣川」など複数の商業施設を開発してきた。質の良い暮らしを提供することで沿線価値を高め、選ばれる沿線を目指している。

 

 ソラトスでは食品スーパーや生鮮三品の専門店のほか、神奈川県産の食品店、県産小麦を使ったベーカリー、クラフトビールのカフェなど、食に関わる地元の店舗も充実させている。3階には9店舗約700席を備えたフードコートを設けており、広々とした空間で駅の電車を見下ろせるテラス席もある。

 

 エンターテインメント関連の施設も充実している。屋上には「そうにゃんぱーく」と名付けた約3,000㎡の子供が遊べる広場があるほか、3階には子供用アミューズメントパークと10スクリーンを備えたシネマコンプレックスがある。また、館内には8カ所のキッズトイレやベビー休憩室、授乳室を設置しており、子育て世代が使いやすいようにしている。

 

 開業以来、運営チームは8カ月で620回もの大小イベントを展開し、集客に力を入れてきた。その結果、ゆめが丘駅の乗降客数は、開業前は3,000人弱だったが平日で約4倍、休日は5倍になり、鉄道事業にも大きく貢献している。

 

 ソラトスが街の発展の起爆剤となり、ゆめが丘駅前には総合病院も開業し、周辺ではマンションや住宅の開発も着々と進み街が活性化してきている。ソラトスは7月に開業1周年を迎えるが、豊かなローカルライフを支える街の拠点となりつつある。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2025年(令和7年)5月28日(水)掲載)