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2022.04.27

日経MJ

軽井沢 開放空間でひと仕事 -アウトレットにワーケーション施設-

  

 日本に30カ所以上あるアウトレットモールの中で、有名観光地・駅前立地、豊かな自然環境という集客の3要素を備わるのが「軽井沢・プリンスショッピングプラザ」(長野県軽井沢町)だ。1995年開業のアウトレットモールの草分け的存在。自然との共生で魅力を増し、ウィズコロナの癒しの場となっている。

 
 

買い物・散策、三世代で楽しむ

 現在、西武ホールディングス傘下の西武リアルティソリューションズ(東京・湯島)が運営する同施設は軽井沢駅南口から徒歩1分の場所にある。店舗面積約4万2000平方メートルで店舗数は200を大きく上回る。この大型アウトレットモールの最大の特徴は自然環境との調和だ。

 

 施設の西側に位置する「ガーデンモール」と呼ばれるエリアは、人工池と芝生で構成する庭園沿いの遊歩道を挟んでショップが連なる。遠景として浅間山を望む静寂な湖畔のたたずまいが来訪者の心を穏やかにする。

 

 一方、東側にある「ツリーモール」は動的なしつらえだ。芝生の広場の中に遊具のあるキッズパークやドッグラン、フードコートテラス、イベントステージが配置され、人が途切れなく出入りする。

  

 国内外の主要な高級ブランド、スポーツ関連ブランド、セレクトショップなどによる充実した店舗構成。モールの通り沿いに配置した雨よけの軒天井は木材と透過性の素材を組み合わせている。ガラス張りの店舗とともに自然とつながる開放感を演出する。フードコートなどには地元の人気飲食店も出店している。

 

 ペットをつれて散歩を楽しむ人や、広場を走り回る子どもたちなども風景の一部として施設の魅力を高める。買い物の場としてだけではなく、非日常の癒やしの場となる公園としての機能も果たしている。「モノより体験」「モノより豊かな時間」を重視するような現代人の価値観とも共鳴している。

 

 豊かな自然と商業の絶妙な調和を実現できた背景には、この施設の成り立ちが大きく影響している。軽井沢プリンス・ショッピングプラザは、軽井沢プリンスホテルに併設されたゴルフ場跡地に作られた。それゆえ「ゴルフコースの起伏や樹木の一部がそのまま生かされている」(小田切亮支配人)という。

 

 さらに西武グループなどが軽井沢を一大レジャー地とすべく、大正期以降にホテルやゴルフ場のほかスキー場などを相次いで開発してきた歴史の流れもくんでいる。人と自然の共存に取り組んできた長年の努力がDNAとしてこの施設に受け継がれている。

 

 3月まで総支配人だった森口英一氏は「三世代で快適に楽しく過ごせるショッピングモールがテーマだ」と語る。こうしたカジュアルな施設のコンセプトも軽井沢の歴史の変遷を反映している。

 

 政治家や文化人が訪れる上質な高原リゾート地として出発した軽井沢だが、1997年の北陸新幹線(長野新幹線)開通後は都心から1時間強でたどり着く身近なイメージが定着した。

 

 同時期に開業した軽井沢プリンスショッピングプラザも27年間にわたって複数回の増床により店舗や景観作りで幅広い客層層に対応する施設に成長してきた。自然との共生も含めて世代をつないで愛してもらえるような仕組み作りの結果が、軽井沢全体の次の時代を切り開く力にもなる。

 

 同施設はインバウンド(訪日外国人)の観光地としても注目を集め、新型コロナウイルス禍前は年1000万人を集客した。しかし現在はコロナの逆境と向き合っている。

 

 売り上げの約10%を占めるインバウンド需要が消失。コロナ下の直近の2年間は、長野県下の住民や別荘族の観光需要を掘り起こしに力を入れるようになった。そうした中の21年7月、国内アウトレットモールとして初の取り組みとなる仕事と休暇をかけ合わせた「ワーケーション」の施設を導入した。

 

 「カルイザワ·プリンス·ザ·ワーケーション·コア」は、西武リアルティソリューションズと野村不動産、JR東日本が運営する会員制の施設で、約500平方メートルの敷地に103席を配置。好きな場所で仕事ができるオープンスペースのほかリモート会議に対応した個室やラウンジなどもある。

 

 軽井沢で週末を過ごす別荘族や観光客が余暇の合間にここで仕事をする。また都市でのコロナ感染を避けるために別荘暮らしを行う人の利用も増えているという。自然とつながる開放的な空間にいることで、仕事における創造性なども高まる。

 

 「アウトレットモールはショッピングだけではなく、散歩や食事、仕事の場にもなった。軽井沢という歴史あるリゾート地だからこそ多様なニーズに応えて進化しなければならない」(森口氏)。

 

 ゴールデンウィーク(GW)の時期、軽井沢では桜が満開となるそうだ。外出が制限された21年までとは異なり、今年は満開の桜の下で買い物や散策を楽しむ人たちの姿がたくさんみられることだろう。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2022年(令和4年)4月27日(水)掲載)