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2022.11.29

繊研新聞

躍進する観光商業-リアルだからこそ成立する領域-

  

 “観光”の大衆化は第二次世界大戦後の1950年代で、経済発展がもたらした社会現象だ。世界の観光市場は約9兆ドル(19年)で世界総GDPの10%を占め、世界の10人に1人が旅行・観光業に携わる。日本市場は39.2兆円、GDP比7%、雇用比8%(19年)で、1人が年間4.7回(日帰り含)も楽しむ成長産業だ。
 コロナ禍で新生活様式が構築される今、“観光商業”の可能性について考察する。

 
 

チャネル拡大の産業

 体験領域とMD領域で観光商業を体系化すると個々の特性が見えてくる。

 

 興味深いのは“避暑地商業”。定番観光商業ではⅣと同類に見えるが、MDの幅が広くライフスタイル型MDで構成されている。明治に外国人が涼を求めて避暑地開発が始まり、日本の富裕層も大正期から避暑概念が広まった。西洋の模倣としてテニス・ゴルフやダンスパーティーが流行し軽井沢・六甲山・箱根などで洋式リゾートライフが展開された。

 

 この背景から洋風MDが基本の食品・衣料・インテリア・生活雑貨・文化雑貨と業種が豊富だ。軽井沢はブーランジェリーやジャム・コンフィチュール・ロースタリー・家具・キッチン雑貨・カジュアルファッション・スニーカー・インテリア雑貨や知育玩具などの専門店が駅前や中軽井沢ハルニレテラス(09年)、旧軽井沢商店街に集積し、別荘族の避暑ライフを支え、観光客の憧れ消費ステージにもなっている。

  

 近年の観光商業に新たな道筋を付けたのは93年に事業化された「道の駅」と考える。トイレ・休憩所の提供から始まり、10年代には地元の畜農水産物の直販で地元生活者や観光客も取り込む施設に成長した。近年はシェアサイクルや周遊バス発着所を設置して地域観光連携をはかる「道の駅かさま」(21年)などが開設され地方創生の一翼を担い始めた。現在、道の駅は約1,200施設あり、民間企業に運営委託し集客力や販売力を高めた「みんなみの里MUJI」(18年)、「丹後王国食のみやこ」(15年)が好調で、連携が増えてくるだろう。

 

 生活者の高い支持力を得て、道の駅風の観光商業施設が最近生まれている。小田原市が事業主で民間企業が運営する「漁港の駅TOTOCO小田原」(19年)、民間企業による「旅の駅」(河口湖22年)などは商品構成や飲食店のメニュー、建物や景観の個性化で人気を博している。道の駅の成功が新領域を生み、老若男女にうける食特化型施設がヒットした好事例だ。

 

 さらに可能性を感じるのはⅡの“ファクトリーテーマパーク”。広大な敷地を持つ工場に大型ショップやカフェ・レストランを併設し、景観を楽しませ来園者に企業の思いやブランドイメージを伝える企業施設で「KAGOME野菜生活ファーム」(長野県19年)、「ラコリーナ近江八幡」(たねや15年)が代表例だ。人気施設では年間300万人を集客する地域観光拠点となっている。来園者には見学や学び、収穫や物づくり、自然体験や人との交流という豊かな時間が提供される。菓子・飲料・加工品など食関連メーカーが事業者に適しており、今後は小売業や工業製品も検討できるだろう。

 

 最後に成長を期待する分野にリゾート商業をあげる。従来はスキーや海洋のリゾートに付帯する土産屋が主で、閑散期には閉店という現状だ。だが、ニセコはインバウンド(訪日外国人)がブームを起こし、アウトドアやスポーツの大手ブランドが多数出店し富裕層をターゲットに活性化した施設もある。

 

 新施設の動きも始まり、NEMU RESORT(15年)はリゾートホテルとレクリエーション施設の総合リゾート施設で、ヨガ・自然体験・クルーズ・ゴルフ・エステなどのプログラムが充実している。残念ながら商業は従来レベルだ。今後の複合リゾート開発は上質な客層を狙うほどアクティビティーに関連するMDと地産品のリゾート商業が必要となり客単価アップのコンテンツとして重要視されるであろう。

 
 

衝動買い誘発の創造
 観光商業は『楽しさで高揚した人のテンションを受け止めるモノ・コト・サービスを密度濃くいかに展開するか』がポイントだ。東京ディズニーランドで大人がミニーの耳カチューシャを買って頭に付け帰路につくような日常とは異なる『衝動的消費心理を起こす商業のあり方を観光というステージで演出するビジネス』だ。図の縦軸ⅠⅢ領域は気分高揚力を創造する領域で開発不足分野だ。アパレルや服飾、インテリア関連企業のビジネスチャンスが大いにある。
 Ⅳ領域はグルメ&健康志向時代に老若男女がこだわりの食を求めているので深掘りができる。

 

 日本の観光商業はⅣ領域をスタートにⅠ・Ⅱ・Ⅲ方向に拡大している。単なる物見遊山の名所旧跡を巡る観光から憧れの模倣や、体験を通した消費を楽しむ成熟した商業ステージに移る。22年以降は特定領域のではなく全領域に商業チャネルが拡大し、サスティナビリティー(持続可能な)視点でアップグレードしていくと推測している。

 

 人口減少とEC普及で唯一リアルが生き残れるのは観光商業だ。コロナ禍を経て人生価値を見直した今、人々が強く欲する観光という娯楽領域に商業の可能性は大と確信している。

 
 
(記:島村 美由紀・関根 洋子/繊研新聞 Study Room 2022年(令和4年)4月5日(火)掲載)