不動産フォーラム21
裏方が日の目を見る。-動くピクトグラムが話題のオリンピック-
●東京五輪の動くピクトグラム
賛否両論あった「東京オリンピック2020」が閉幕しました。開会式・閉会式のパフォーマンスには大きな注目が集まりましたが、最も楽しめたのは、3人のパントマイムアーティストによる全50競技のピクトグラムを身体を使って5分間で表現するパフォーマンスでした。SNSで「面白い!」「斬新だ!」と声が上がり、世界中の老若男女の視線を釘付けにした時間でした。
デジタルを一切使わず3人の身体のみのアナログ世界で人々を楽しませた創造性に脱帽しました。そして、このパフォーマンスが多くの人々に「ピクトグラム」の存在を知らせるよいきっかけになったと感じました。
●あなたの周りはピクトでいっぱい
ピクトグラムとは絵文字や絵単語と呼ばれる視覚記号(サイン)のひとつで、言語を使わずに視覚的な図で、ある事を伝達する方法として様々なマークがつくられています。
ピクトグラムとオリンピックは深いつながりがあり、1964年東京オリンピック開催時に当時コミュニケーションが苦手だった日本人と外国人のためにシンボルマークで情報伝達を行うため開発されたのが始まりで、2002年にJIS統一規格とされ国際的にも共通マークとして国内だけではなく世界中で使用されるに至っています。
1964年当時、日本トップクラスの11人のデザイナーが招集されて39種類のピクトグラムをつくり出したそうですが、最後に著作権放棄することを決めた決断が、ピクトグラムを世界中に普及させる結果となった逸話があります。
さてこのピクトグラムの存在を人々は以前から知っていたでしょうか?私の周囲にいる知人に「ピクトグラムって知ってる?」と質問をするとほぼ全員が「あのオリンピックでおもしろかったヤツ」と答えてくれますが、「以前から知っているピクトグラムは?」に対しては「えーっと、トイレマークかな…」なんてかなりあいまいです。
私たちの身の回りには相当数のピクトグラムが行動をサポートしてくれており、トイレ・案内所・非常口・駐車場・無線LAN・優先席・くず入れ・授乳室・エスカレーター・エレベーター・郵便・コインロッカー・スロープ・病院・警察など、公共施設、交通系施設、観光・文化・スポーツ施設、安全・禁止・注意・指示・災害などの範囲で、人々の誘導や人々の注意喚起に役立ってくれています。
しかし、あまりに当たり前の小さな存在すぎて、トイレマークぐらいしか思い出してもらえないかいわいそうな「ピクトグラム」…。今回のオリンピックは、あの3人のパフォーマーにより生活の裏方的存在であるピクトグラムに日が当たった記念すべき大会になったと私は思いました。
●日の目をみる「ピクトグラム」
施設開発系の仕事では「ピクトグラム」がとても身近な存在で、「各種ピクトグラムをどこに設置するか」「オリジナルピクトにするかJISピクトにするか」など重要な検討テーマになり、オリジナルピクトを開発することになるとデザイナーが腕をふるって新デザインを提案してくれ検討も楽しい作業になります。「ピクトグラム」が創造力を結集したこだわりの作業になるわけです。
併せて万人にわかりやすいピクトが適切な場に設置されないと、来館者の誘導力が劣る施設となり混乱を招き安心安全な開発にはなりません。ピクトグラムは重要な存在なのです。よって色々な建築や施設に行くと、どんなデザインのピクトグラムがどこに設置されているのか気になり、その開発関係者のこだわりを知ることも私の楽しみのひとつです。
オリンピック開幕後、一躍ピクトグラムは注目の存在になり、自作ピクトグラムをつくりSNSにアップする人が急増しました。中でも子育てを表現した「ママリンピック」や猫のしぐさをデザイン化した「猫ピクトグラム」が話題になりました。
これから「ピクトグラム」は街の中で意識して見てもらえるようになるでしょう。東京オリンピック2020はこんな小さなことにもきっかけを与えてくれました。
(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2021年9月号掲載)