日経MJ
街路の趣 弾む路面店-原宿「WITH HARAJUKU」個性満開-
深い社の中に創建100を超える明治神宮、ラグジュアリーブランドが連なる表参道、若者文化を発信する竹下通りと異なるエリアが共存する原宿は独特な魅力を持つ街だ。その駅前に端正なモダンデザインの大型施設「WITH HARAJUKU」が開業して3年が経ち、街に新たな人の流れを生んでいる。
原宿「WITH HARAJUKU」個性満開
2020年6月、新型コロナウィルス下で静かにオープンをしたWITH HARAJUKU。最初に訪れた時、以前この場所に何があったかすぐには思い出せなかった。原宿は昔から人気の街だが、駅からの人の流れは明治通りや246号線へ向かう流れが強く、JRと平行する流れは弱かった。そこにWITH HARAJUKUが誕生し、駅前の景観と人の流れに変化を起こした。
コンセプトは「路面店の集合体」だ。一般的に館だけで完結する整ったMDのモール商業ではなく、原宿の魅力である個性的なエリアとエリアを結ぶパサージュ(街路)の役割を持ち、溶け込んだ一角を形成することを目指した。
その考えが表現されているのが、駅前から竹下通り方面に貫通させた吹き抜けの大通路と両サイドの大型店舗の構成だ。低層部5層の商業面積約10,300㎡に店は15店舗と少ない。床を大区画で割りメゾネット(2層使い)店舗を複数配して、ブランドの世界観を打ち出せるステージを設えた。
テナントにとって原宿駅前の一等地で大規模な店舗を構えられるチャンスは稀だ。資生堂やイケア、ユニクロなどがフラッグシップとして出店し、競い合うように個性を発揮して話題を集めている。
大胆な貫通空間となるパサージュはシンプルなデザインで、木の枝をモチーフにした演出がアクセントになっている。両サイドの大型店舗は全てガラスファサードになっており、店内のディスプレイや客の賑わいがパサージュに映し出され、街路のような的雰囲気を醸し出している。
パサージュを進むとやがて竹下通りに抜ける小路空間へと変化させているのも原宿らしい演出だ。「原宿に来る人のモチベーションは何か。街の魅力を読み解き、倣う考察を重ねた」と開発を手がけたNTT都市開発商業開発部の杉木利弘担当部長は語る。
江戸時代にこの場所には源氏山という小さな丘があったそうで、WITH HARAJUKUは駅前側と竹下通り側では8mの高低差がある。高低差を生かし、竹下通り側に緑豊かな複数のテラスを立体的に配置している。テラスでは原宿の街の景観を自然体で眺められるポイントが楽しい。原宿には名所が数多くあるが、今まで高所からの眺望チャンスがあまりなく、改めて街の持つ景観の力を認識できる。
WITH HARAJUKUの3階には300人収容のイベントホールとコワーキングスペースがある。ある時訪れた際には企業のプロモーションイベントが華やかに開催され、隣接するテラスでは風に吹かれながらシャンパンを片手に語らう人々の姿があり、都会的でお洒落なワンシーンが印象的だった。
3階空間も街路空間を目指したWITH HARAJUKUのポイントだ。従来の展示会場やホールは扉で閉ざされ、大イベントでも何をやっているのか臨場感が外に伝わらないことが常だった。それがこの施設ではパサージュに向かって開かれたホールを実現している。
ホールはオープンにでき、通路もガラスファサードなので、3階のレストラン利用客からイベントで賑わう様子が見える。コワーキングスペースを商談の場やアフターパーティー会場としてホールと一体活用できる。今年になりファッションイベントやスポーツアパレルの催しが多く開催され、ホールやコワーキングスペースの稼働は向上しているそうだ。街路的な開かれた空間への工夫は多層階で効果が見られる。
春以降、原宿への来街者は急激に増え、特に外国人観光客の増加が特に著しい。WITH HARAJUKUは駅に降り立つと最初に見える大型施設とあって、多くの観光客が買物や飲食を楽しんでいる。人気スポットである原宿への国内外からの流入がWITH HARAJUKUにも安定感をもたらしつつある。
2025年春には同じくNTT都市開発が手掛ける商業施設「原宿クエスト」が生まれ変わって開業する。ここでも表参道と奥原宿をつなぐ街路的施設のあり方を踏襲して計画が進行している。原宿の街の楽しみ方の深度が「WITH HARAJUKU」に続き「原宿クエスト」でも期待される。
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2023年(令和5年)8月23日(水)掲載)