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2021.10.27

日経MJ

自然の中に「聖地」たたずむ-東京・昭島の「アウトドアビレッジ」-

  

 長引くコロナ禍でショッピングセンター(SC)などの商業施設は苦戦を強いられているが、アウトドアに特化した「モリパークアウトドアヴィレッジ」(東京都昭島市)は消費者の自然志向の高まりを受けて好調だ。トップブランドが集積し、魅力的な環境と店揃えから「アウトドアの聖地」と呼ばれている。

 
 

有名ブランド集積、体験も可能

 近年、SCではアパレル業態の不振からブームになっているアウトドア業態への積極的な入れ替えを行い、都心SCでもアウトドアゾーンが急激に増えている。しかし、2015年には東京都昭島市にアウトドアにテーマを絞った「モリパークアウトドアヴィレッジ」が誕生している。

 

 この施設が都心のSCと大きく異なる点は6,500坪の敷地にモンベル、ザ・ノース・フェイス、スノーピークといったアウトドアのトップブランド16店を集積し、樹木に囲まれた山小屋風の戸建て環境でショップ展開していることだ。アウトドア好きの消費者には名の知れた存在で魅力的な環境と店揃えから「アウトドアの聖地」と呼ばれている。

 

 工場跡地だった広大な敷地を開発するにあたり、奥多摩の玄関口である自然豊かな昭島のロケーションを生かすことや、ライフスタイルにこだわる人を集めたいという視点からブームの先駆けとなる施設開発に踏み切った。

  

 「山を歩いていたら偶然に花畑やショップに出会ったような楽しさと豊かな自然感」を表現したという昭和飛行機都市開発開発本部の矢島曉彦部長は、登山のベテランで北アルプスの燕山荘や奥穂高岳山荘など山小屋の独特な風情ある温かなたたずまいをイメージして計画を進めた。

 

 思いが実を結び、年間約75万人の来館客を迎える商業施設になった。消費者の施設評価は高く、「近くの大型スポーツ店で安く買える物があるが、ここで色々な店をのぞきブラブラと買い物を楽しむ方が楽しい」というファンもいる。

 

 この自然感はテナント誘致でも効果を発揮した。当初、都心から約35㎞の昭島について各テナントは集客に対し懐疑的で誘致に時間がかかったが、ある有名ブランドの代表に説明したところ「商業の中ではなく、自然にこだわった中にアウトドアがある」と計画を評価。その場で出店を決断したことが他のブランド誘致のきっかけとなり、ブランド集積が実現できた。

 

 テントは実物を張って使用感を試せる。火を起こし薪をくべることもできる。「都心ではできないことが可能だ。アウトドアのリアルな体験と面白さの体感がこの施設の強みだ」と不動産事業本部の高橋佐登志部長は言う。

 

 また開業時からワークライフバランスを心掛け、毎週水曜日を定休日とした。アウトドア好きのショップスタッフが山や野へ出掛けられる状況づくりをディベロッパーが行った結果、専門知識のある店舗スタッフの充実やスタッフのアウトドア活動をインスタで知った客が話を聞きに来店するというシナジー効果を生み出している。

 

 アウトドアヴィレッジを散策すると、黄色になりかけたイチョウの木や珍しい10月桜が花をつけ2度咲きのキンモクセイが香る自然のステージが広がる。人工の滝と川の流れは休日にはカヤック教室の場となる。テラスが張り出したカフェは人気があり、平日でもカップルやファミリーの客足が絶えない。

 

 こんな豊かな自然空間の中に山小屋風ショップが軒を連ねて人々を迎えている。大型店は2階建てで1階はビギナー、2階はエキスパートと商品を分けて来店客の使いやすさを訴求しているブランドもある。

 

 休日には様々なイベントが開催され、キャンプビギナー層へ山男が薪割りを教えるワークショップや焚火を起こしての焼きマシュマロ作りが子供を集めたりと活発だ。アウトドアを始めようというエントリー層もファッションとしてアウトドアウェアやグッズを楽しむ層にも来館、来店しやすい施設づくりを目指し「アウトドア世界の裾野を広げる事」を目標にしていると高橋氏は語る。

 

 施設内には切り株や砂利、丸太が敷き詰められた200mのトレイルレーンが設置されていてトレッキングや登山用の靴の試し履きができ、若い女性が切り株の上を歩いていた。また、国際基準でつくられたクライミングウオールでも女性がトレーニングに取り組んでいた。東京五輪で有名になったクライミングは子ども達のスクール入会が急増しているそうだ。

 

 週末には県外からの来館者も多く、約50km圏が商圏となっている。「買い物もさることながら、価値ある自然の豊かな雰囲気を楽しむためにわざわざ来てもらえる施設づくりを大切にしていく」と両氏は口を揃える。

 

 実はアウトドアヴィレッジのある場所はモリパークの一角にすぎない。モリパーク全体は約130万㎡で昭和飛行機工業が保有する広大な敷地であり、昭和の時代には道路や歩道の整備が行われ、街づくりの基礎が整えられていた。「スポーツ環境を若年層へ開放し、高齢者が気軽にスポーツに親しめる環境づくりで地域貢献を進めたい」と森本大会長は語る。

 

 敷地の中心に全国で類のない400mのイチョウ並木が街のシンボルとして静穏な景観をつくり出している。今後はこの並木が核となり令和時代にマッチした多様な施設開発が計画されており、昭島に新たな街づくりが始まろうとしている。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2021年(令和3年)10月27日(水)掲載)