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2021.10.01

不動産フォーラム21

自宅で機内食を楽しむあなたに、 ボンボヤージュ!

  

●せめてもの機内食で旅気分 
 秋の夜長に思い出すメロディー“♪タララルールー タララルーラー タラララー♪”。あのご長寿ラジオ番組「ジェットストリーム」のテーマ曲「ミスター・ロンリー」です。はじけた夏が終わり秋風を感じる夜、このメロディが頭をよぎり「ああ、ひとりでどこかに行きたい…」と旅情にかき立てられます。特に今年はその思いが切実で、「どこでもいいから行かせて気分」がふくらんでミスター・ロンリーも大音響になっているのですが、そんな気分は私ばかりではないようです。

 

 全日空が昨年12月からネット販売で一般向けに売り出した国際線エコノミークラスの機内食の販売数が100万食を突破したというニュースが9月に流れました。コロナ禍で長らく飛行機による旅行が控えられる中、せめて機内食で海外旅行気分を楽しもうというニーズにこたえたネット販売が予想外の反響をもたらしたそうです。

 

 思い出してみると、昨年来航空会社は減便に次ぐ減便で業績悪化。その対策として全日空は機体数の削減や不採算路線の見直しを実施したり、社員を小売業や飲食業等の外部企業へ出向させ語学スキルや接客スキルの高い社員能力が評判となり、出向受け入れ企業がいくつも名乗りを上げたと話題になりました。機内食ネット販売もヒットコンテンツとなり、非航空部門の売上貢献を果たしたわけです。

 

 実は数年前、空港関連企業への事業提案プロジェクトを進めていた折に、同様のアイデアが若手スタッフから提案されたことがありました。「旅の機上だから楽しめる食事をわざわざ日常で買う人はいない」と私は思いましたが、クライアントに提案すると私と同様意見でアイデアはボツになりました。しかし市場は眠っていたのです!!「旅情を味わう」ニーズはコロナをきっかけに大きく顕在化したわけです。

 
 

●ビックヒットはコロナ禍の食事情にあり
 それにしても、9ヶ月足らずで100万食はすごすぎる。それほど旅に飢えているのか?と不思議に思ったので、さっそく全日空機内食をネット購入してみるとすぐにヒットの秘密がわかりました。それはプライスです。価格は9,000円とネット購入する冷凍食品としては勇気のいる価格ですが、6種類×2個=12個入りで9,000円ですから、1ツ単価は750円となり、すごくリーズナブルな食事です。

 

 今どきの駅弁は1,000円強、コンビニ弁当やスーパーの弁当も美味しそうなものは500円~600円台、デパ地下弁当は1,000円以上。それが全日空の国際線機内食というブランドとクオリティが保証され、あの時のあの旅の味という個々の思い出ストーリーも付いてきて750円はリーズナブルの一言につきます。

 

 「ハネムーンで行った初めてのパリ。楽しかったネ、パパ」と会話する夫婦のディナー。「夏休み旅行のハワイ。また連れていって」の休日ファミリーランチ。会話が@750円で弾むこと請け合いです。駅弁やコンビニ弁当、デパ地下弁当にはない体験領域です。

 

 それでも100万食には驚きだと思っていると、機内食購入者からいろいろな活用エピソードが上がってきました。リモートワークのランチに手軽で便利、旅行に行けない両親へのプレゼント、友人への誕生日ギフト、スープとサラダを付ければワーキングマザーの時短な夕食、コロナ禍のダイエットに適量サイズなどなど、美味しい冷凍食品の弁当として様々に活用がされています。

 

 中には他メーカーの冷凍食品と違って、切れ端が材料になったり揚げ物の衣が厚かったりという変なところがないので信頼できるとか、ANAファンなので苦戦している会社を支援したい、という消費者シビア&あたたか視点も聞こえてきました。

 
 

 コロナ禍で個人市場が拡大した食品の筆頭に冷凍食品が挙げられ、コンビニでもスーパーマーケットでも冷凍食品コーナーは増床しています。コロナ前の2019年冷凍食品の出荷額は家庭用が3,104億円、業務用が3,815億円でしたが、コロナ禍の2020年は家庭用が19%増の3,749億円、業務用は14%減の3,279億円となり、家庭での冷凍食品への注目を物語るデータが発表されています。

 

 冷凍食品の種類も年々豊富になりハンバーグや餃子やチャーハンの定番から、今ではカット野菜やフルーツまで幅が広がり料理の“ちょこっと付け足し”に活用できる主婦の助けになっています。

 

 航空会社ではエコノミークラスの機内食からビジネス・ファーストクラスの機内食やお菓子までネット販売の幅を広げて更なる売上アップを目指そうとしています。でもやはり、飛行機に乗り雲の上で機内食を味わいたいものですね、1日も早く!!

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2021年10月号掲載)