日経MJ
肥後城下町にサクラマチ-バスセンター再開発、商業施設に-
昨年9月、熊本市中心部に誕生した商業施設「SAKURAMACHI Kumamoto(サクラマチ・クマモト)」の開業に、同市の人口74万人の3分の1に相当する25万人もの人が詰めかけた。開業後も人気は右肩上がりで開業10日間で100万人を突破し話題となった。
テラスや空中庭園 流線形と緑で調和
熊本城に隣接するサクラマチは大規模バスセンター跡地の再開発施設として、熊本城との調和を第一に考えてデザインされた。50年間、その地にあった旧バスセンターが箱型建造物だったため、新しい時代に向けて城を軸とした都市景観が優美になるよう、流線形の建築デザインが採用された。
さらに城からまるで庭が連なっているように建物外部にテラスや空中庭園を随所に配置。来館者の安らぎの場となるとともに“街へのやわらかい風景づくり”として日中やライティングした夜も表情をつくり、大規模建築物にもかかわらず流線形と緑の配置の妙が街に対し圧迫感のない自然なたたずまいを実現している。
館の名称である「サクラマチ」は桜町という地名に由来する。かつて城下で桜の名所であった付近を流れる川に架けられた橋「桜橋」にちなんで明治時代に「桜町」と地名が付けられたという。地名を踏まえて、館ではテラスや屋上庭園に複数の種類の桜を植え、年間の4ヵ月間は桜の花が絶えることのない風景を楽しめるよう工夫している。
サクラマチの高い集客力には2つの要因がある。1つはサクラマチが建築された地は50年前から巨大バスセンターで地域の人々が毎日通い親しんだ場であり、施設の老朽化にともなって2015年9月に解体された時から「次は何ができるのだろう」と市民の関心が高かったことだ。
完成した施設は商業施設「サクラマチ」とシネコン(面積計約4万4,500㎡)、バスターミナル(4,000便発着/日)、熊本城ホール(3,000人収容)、ホテル(205室)、住宅(159戸)、オフィスなどで構成。総延べ床面積16.4万㎡の大型複合施設となり、県下で群を抜く都市機能の集合体として注目される。開業して1年近くが経過する今でも「交通センターで待ち合わせ」「交通センターに買物へ」など当時の呼称で呼ぶ人が絶えないほど、なじみの場所だ。
2つ目はグランドオープンブ日の9月14日に「熊本県内バス・電車無料の日」という全国初の市内回遊キャンペーンを施設開発者、九州産業交通ホールディングスが実施したことだ。混雑緩和と街中に人々を回遊させる大きな仕掛けを講じた。この結果、サクラマチへの関心を高めることにつながり、昼間で2倍、夜で1.35倍に人出が増加した。サクラマチだけでなく、商店街や他の施設にも人々の立ち寄りが増え、独自試算では1日に約5億円の経済波及効果を街にもたらし、街は人の波に埋まる1日となったという。常日ごろ、町全体へのにぎわい創出・回遊向上をテーマにバス事業を営む同社の企業理念が生かされたキャンペーンとなり全国版のニュースにもなるほど注目された。
熊本城とつながり 街のハブ・回遊拠点
3月以降、熊本でも新型コロナウイルス禍で外出自粛となった。全国の商業施設が閉館を余儀なくされる中、バスセンターを内包するサクラマチは都市の重要インフラ施設として、食料品・薬・日用雑貨がそろう店舗やクリニック、飲食店の営業をテナント協力の下に継続して人々の暮らしを支えた。
建設途中の2016年4月には熊本地震が発生し、県内で多大な被害が出た。サクラマチでは一部の設計計画を変更して、市民1.1万人が3日間この施設内で避難生活を送れるための備蓄や機能を付加し、今後の天災に備える準備をした。この変更はサクラマチが“街との共生を基にした施設”との役割を改めて明確にした。
「館は街のハブ的存在。館内に全てのものをそろえずに館から街中へ出て楽しんでもらい、バスセンターから家路についてもらうようにした。街の回遊拠点というのがこの施設の考え方だ」と管理運営する九州産交リテール(熊本市)経営企画本部の和田直人室長は語る。
学校帰りの学生が商店街の大型書店の袋を抱えてフードコートで仲間とおしゃべりをしたり、百貨店でショッピングをしたミセスがスーパーマーケットに立ち寄り食品の買い物をしたり、ビジネスマンが帰路につく前のちょい飲みを楽しんだり、多くの来館者がバスに乗る前のちょっとした用足しや楽しみの場として館を活用している。この“ちょっとした”という気軽さを実現できるのが、サクラマチの価値なのだろう。
サクラマチは2年目を迎え本格的に地元発のモノ・ヒト・出来事を発信していく。今春はコロナ禍でお披露目を控えた桜は、来春には大勢の人々を楽しませてくれるはずだ。
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2020年(令和2年)7月15日(水)掲載)