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2019.03.27

日経MJ

羽田にNYソーホーの風 -滑走路望む 穴場に個性店-

 

 羽田空港には約450の店舗が並び、商業施設としてみても成田空港と並んで国内トップクラスの規模と売上高を誇る。2020年の東京五輪を控え、新商業ゾーン「ザ・ハネダ・ハウス」が昨年12月に開業した。滑走路に面した細長い空間はニューヨーク・ソーホー地区の雰囲気を漂わせる。

 
 

むき出しの天井 カジュアル演出
 出張帰りの夜9時の羽田空港。食事を取ろうとエレベーターに乗り5階へ。扉が開くと「LDH Kitchen」のライブレストランが迎えてくれた。ニューヨークのライブハウスの雰囲気がある店ではステージで若いジャズシンガーが歌っている。各地からの最終便が着陸する夜の滑走路を眺めながらムーディーな2時間を過ごせる。
 

 羽田空港のレストラン探しに苦労したことがある人も多いだろう。昨年末に羽田空港第1ターミナル5階の商業ゾーンに開業したハネダハウスは個性的な14店舗で斬新な空間をつくり出している。
 派手な入口は無いが、自然な流れでエリアが始まる。天井はダクトがむき出しで、鳥かご型の照明がつり下がる。白レンガ風の壁にガイドマップを描き、従来の空港にはないカジュアルな雰囲気を漂わせる。広場には空港の廃材で作ったペンギンが鎮座。キャリーケースを引いて旅に出ようとしているかのようだ。
 さらに歩くと中庭をぐるりと囲む通路となり、壁面アートと世界中の名作デザイナーズチェアを何十と置いたデザイン回廊に至る。スポーツジムからはビートのきいたBGMが細長い回廊に流れてくる。
 ハネダハウスはニューヨークのソーホー地区のような空気感が漂う。京都の町屋に似た細長い形状なので、庭と廊下を軸にし名前もハウスとしたそうだ。奥に進むに従い異なる機能が現れる。「型は京都、吹く風はソーホー」の新感覚は意外なマッチングだ。

 
 

通過する場から滞在する空港へ
 日本空港ビルデング副社長の宮内豊久さんは「安心・安全・快適という点では羽田空港は評価されている。これから充実すべきは利便と楽しさだ」と、2年前に計画をスタートさせた。4,000㎡のオフィスを転換し、滑走路に面した長さ150mの立地を商業用途に切り替えた。

 

 羽田空港は毎日24万人が利用し、半分は何度も使うビジネスマンだ。コト消費や時間消費が注目される時代だけに、「通過する場所から滞在する空港へと変えたい」と宮内さん。そこで快適で楽しく滞在できるよう多様な選択肢をそろえた。
 ライブレストランは人気グループ「EXILE(エグザイル)」が所属するLDHが運営し、世界120ヶ国に拠点を持つリージャスの賃貸オフィスもある。チーズタルト専門店「PABLO(パブロ)」とANAがコラボしたカフェに折り畳み自転車の「DAHON / Tern(ダホン/ターン)」、オンワード樫山のオーダースーツ店、ボクシングフィットネスの「b-monster(ビー・モンスター)」、レッスンや試打ができるゴルフラウンジと業種は幅広い。
 ライブレストランで開く著名アーティストのコンサートには全国からファンが集まり、数万円のチケットが完売になる。オーダースーツ店では地方の経営者が従業員の制服として数十着の注文を入れる。
 ヘッドスパとマッサージと酸素カプセルのはしごで時差ボケを解消している海外出張帰りの人がいれば、サンドバック相手に一汗流して帰路につくケースも。若手ビジネスマンは滑走路に面したスターバックスをコワーキングスペースとして活用。空港ビルの予想を超えた使い方が生まれている。
 事務所スペースからの転換だけに立地は良くはない。しかし旅客の目に触れにくい場所だからこそ巨大空港で静かな時を過ごせる穴場としてリピーターが増えている。意外性も魅力の一つだ。

 

 羽田空港は年に8,750万人もの人々が往来する巨大ターミナルだ。街中にある便利で楽しい商業施設と同じレベルをめざしていると宮内さんは話す。快適なトキと面白いコトが味わえれば1時間早く家を出て空港で楽しもうとする人は増えるはず。ハネダハウスは第2期ステージの計画を練り始めている。

 
 

(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2019年(平成31年)3月27日(水)掲載)