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2016.07.05

不動産フォーラム21

立ち飲みワイン屋の午後

 

 ワインはすっかり日本の食文化に定着した感がありますが、40年強の時間を経て何度もワインブームが起き、今は第7次ワインブームと呼ばれていることをご存知ですか?

 

 第1次ワインブームは1970年代のこと。洋酒の輸入が自由化されヨーロッパワインを中心に日本に入ってきました。価格も高く高級品イメージでワインが扱われた時代です。その後数度のブームを経て、あの有名なボジョレー・ヌーヴォーの流行が1980年代後半に第4次ワインブームとされ、1990年代にポリフェノールに健康効果があると赤ワインに注目が集まったのが第5次ワインブーム。それから90年代後半にはチリやスペイン等の低価格ワインがメジャーになり、すっかり日本の食の場にワインが定番となって浸透したのが第6次ワインブームです。
 そして2012年頃から始まった今の第7次ワインブームは、スパークリングワインの流行、ワインバルや洋食居酒屋等のカジュアルな飲食業態が生まれワインがリーズナブルプライスで提供されるようになり、個人のネットでの手軽なワイン購入が可能になり家飲みワインが普及、オーガニックワインへの注目、若い醸造家の出現で小規模ワイナリーが増え、ワインツーリズムの関心が高まるというように、第7次ブームは盛りだくさんのエレメントがあり、ワインの日本食文化への定着ぶりを表しています。

 

 さて、“ワインは日常”を物語る話に、「立ち飲みワインバー」が最近、街中で頻繁に見かけるようになりました。どの店も5~6坪の小規模が主ですから商店街の一角や飲食店街の一角に出店しています。バーと表現してもワインを飲ませる事を目的とする立ち飲みバータイプとワイン販売を目的としたショップがテイスティングカウンターを設えたタイプの店があります。
 私が行く店は後者で、駅のガード下にある5坪ほどの店です。半分は販売するワインがずらりと並ぶ棚、そして小さなカウンターの中のスタッフは常に女性です。グラスワインは200円~350円、おつまみは乾き物のチーズやナッツ、ドライフルーツ。今日もランチ帰りに立ち寄って、オーストラリアのスパークリングワインとチーズを2切れで600円弱。気分の良い午後になりました。棚のワインを一本買って抜栓してもらいカウンターで飲んでもワインの値段は変わりません。残ったワインは栓をして家に持ち帰っています。(知人の行くワインバーでは残ったワインは味が変化しない期間であればボトルキープ出来るそうです。)店にはいろいろなお客が来店します。駅前のスーパーで食材を買った老夫婦が「今晩はステーキにするのでどんなワインがいいかしら?」と棚のワイン選びをしながらおやつ時間にちょっと1杯。スポーツジム帰りの主婦が数名でちょっと1杯。そして昼過ぎに塾に行った子供を待つお母さんがちょっと1杯。「ここでワインを飲んでから子供に会うとおこる気分にはならない。子供の成績をまあいいか―、と思えるからお互いウィンウィンなのよー!」とおっしゃるそうです(笑)。昼間から役に立ちますね、街のワインバーも。
 販売するワインは1,000円台のテーブルワインから数万円クラスと幅広ですが、薀蓄たっぷりの気取ったワインショップで恐る恐る店員にワインのおすすめを尋ねるような面倒くささは一切なし。「安くておいしいワインをちょーだい」というまるで旬の果物でも買うような気軽さです。飲みも買いも女性の一人客がかなり多いそうです。
 この店は近くにあるイタリアンレストランの出店で、女性スタッフが担当するワインショップです。ガード下に空き店舗があったので1年前に試しに店を出したら好評となったそう。小規模、少人数、小投資で始められる業態であり、第7次ワインブームに支えられ女性までもが一人で日中からワインを飲む食文化の変化マーケットにうまくマッチした楽しい業態の誕生ですね。
 夏に向かって私の寄り道も増えそうです。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2016年7月号掲載)