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2015.12.28

販売士

目指せ!声掛け名人

 

 注目している女性がいます。その人はある食品街の生鮮三品ゾーンの鮮魚スタッフです。ともかく声出しが素晴らしい。ゾーン全体に響きわたる大きな声を出し続けています。大声で常にですから、お腹の底から腹式呼吸で発生しているのではないかと想像するほどに大きな声掛けが連続してできる人です。
 さらに素晴らしいのがこの人のトーク力。いろいろなお話を考えて、お客様を引き込んでいきます。あるとき、鱈の切り身の販売が始まりました。
 「さあ、これから〇〇水産名物のクッキングスクールが始まります。名物クッキングですよ!皆様、お集まりください」と電気プレートの前に人を集めます。
 「本日のテーマは鱈のホイル焼きです。このようにアルミホイルにバターを塗って、旬の鱈の切り身をのせて焼いていきます。野菜も一緒に焼くと豪華になりますね!簡単、簡単。料理が苦手な私でもおいしい鱈のホイル焼きが簡単に出来上がりますよ!!」と言いつつ、焼きあがった鱈をお客様に試食させていました。
 「えっ、名物クッキングスクールなのに、料理が苦手なの、この人は!?」と思ったとたんに、彼女の口上を聞いていた私は吹き出してしまいましたが、本人も声出ししながら「あれ!?」と思ったのか、笑いながら話続けています。

 

指示ではなく創意工夫でかけがえのない人材に
 こんな感じが毎日展開される売場ですから、彼女の出勤日は売上がアップするそうです。
 鮮魚店本部にこの人について問い合わせると、まったくの素人でパートスタッフ。入社2ヵ月だそうです。トークについては店から指示出ししていることは一切なく、本人のオリジナルトークであり、「〇〇水産クッキングスクール」も本人の思いつきだということです。本部では、この有能な人材を他社に引き抜かれたら大損失というわけで特別待遇スタッフとして時給アップを決定しました。
 考えてみれば、鮮魚店や青果店では、男性の「いらっしゃい、いらっしゃい」が昔からの店頭の声掛けスタイルでしたが、女性の声掛けは意外と少数派です。また、男性に「クッキングスクール」と言われてもピンとこないところも、女性から「〇〇水産名物クッキングスクール」と声掛けられると、自然と受け入れられるものです。この女性の存在は、まさに生鮮店の女性ならではの好感度が高い「声掛け名人」だと感心しました。

 

「ありがとう」は万能ではない
 話は変わって、ある和惣菜の店からの相談がありました。「店頭のおにぎりや惣菜はよく売れるのに、イートインスペースで展開しているお茶漬けがまったく売れない」という悩みごとです。チラシ配布や大判ポスター掲示などの対策は検討しているとのことでしたが、「そんな必要は一切なし」が私の回答でした。
 あわせてアドバイスした内容は、次のことでした。「貴店のスタッフには、なかなかかわいい女性スタッフが複数人おられますよね。この女性達に声掛けの新方法を教えてください。今までは店頭でお買い上げのお客様に品を渡す際、『ありがとうございました』を言っていましたが、これを当分の間禁止してください。ありがとうは言う必要ありません。変わりにスタッフに『次お越しになるときは、イートインをご利用くださいね』『おいしいお茶漬けをやっていますので、お試しに奥のイートインでお食事をしてください』『よろしければ、次回はイートインでお召し上がりください。お待ちしております』という声掛けとともに、笑顔でおにぎりやお弁当を渡してみてください。皆で徹底してこれを続ければ、必ずイートインのお茶漬けの売上げは上がります。と私はお話しました。
 その結果、この店のかわいい女性スタッフのお茶漬けプロモーションは成功して、イートインの売上げは約1ヶ月で上昇しました。作戦は大成功で、スタッフは声掛け名人になりました。
実は、この策は「ありがとうございました」がお見送りや品渡しの声掛けではない。もっと考えたコミュニケーションのとり方があるのだと、あるときに若い店員から学ぶことができたグッドプランです。

 

声掛けにメッセージをこめる
 私がヤングカジュアのアパレルショップでたまたま見つけたセーターを買った時のこと、20代前半とおぼしき、私の娘のような若い女性が接客をしてくれました。
 彼女は店頭まで商品を持って見送りをしてくれ、別れ際に「今度そのお似合いのセーターを見せに、お店に遊びに来て下さいね!」と私に言うのです。「はあ、遊びに来い!?」「セーターを着て見せろ!?」。何なのだと、私は大きな違和感を持ったのですが、冷製に考えてみれば10代や20代がメインターゲットである女性たちは、店員と友だち感覚で付き合い、その店で買ったお気に入りを店に来たり、遊びに来たりする関係性を店が持つことで顧客化が促進されるわけです。「ありがとう」ではなく「また来てね」は、実にリアルなお見送りスタイルだと思いました。
 こんな体験から「ありがとう」という何も考えない楽な声掛けではなく、メッセージ性のある声掛け、次につながる声掛けの創造を皆さんにお勧めしています。これができれば、声掛け名人がたくさん誕生します。
 皆さんも「目指せ!声掛け名人」です。

 

 

(記:島村 美由紀/販売士 第19号 (平成27年12月10日発行)女性視点の店づくり④ 掲載)