日経MJ
異人街の廃校、モダンな商業施設 -「神戸北野NOSTA」、3ヶ月で10万人-
少子化で20年間に累計5,000以上の小学校が廃校となる中、廃校舎を活用したプロジェクトが関西で注目されている。2024年11月に開業した「神戸北野NOSTA」は、1931年築の「旧北野小学校」をリノベーションした商業施設。約2,100㎡で7つの店舗と1つのホールという小規模ながら、開業後96日で10万人の来館者を迎えるなど好調だ。
地元客も集う食の7店舗
神戸三宮から山手方面にトアロードを歩くと、しゃれた店舗やマンション群の先にインターナショナルスクールと並んで旧北野小学校が見えてくる。神戸異人館街にある建物だけに、小学校といえども洗練された佇まいだ。
閉校するまで神戸に住む外国の子供たちも多く通った小学校は、レンガの外壁を残し、オフホワイトの外壁に青いシェードが館の表情をつくる。レトロモダンな目立つ存在だ。
館に入るとアーチ型の天井から球型の照明が一列に吊り下がり、廊下がノスタルジックに演出されている。階段をあがると木製の踏み板がキュッキュッと音をたてて、子供時代にタイムスリップする感覚だ。
3階の階段室の天井には当時のアールデコ風シャンデリアが残され、階段の手すりには所在地である旧生田区の「生」の字がモチーフに埋め込まれており、威厳ある校舎時代を彷彿とさせる。第2次世界大戦と阪神大震災を乗り越えてきた建築物は、強固さの中に柔らかさを持った魅力的な空間として現代に再生された。
NOSTAは2023年に神戸市が公募した「旧北野小学校跡活用事例」を使って整備された。公募で「上質な神戸のライフスタイルを発信」が課題となり、ジーライオン(神戸市)の提案が採択された。1年強の準備期間と4億円をかけ、施設を一新させた。
コンセプトは「ONE TABLE(ワンテーブル)」。企画段階から計画を推進した、施設を運営するジーライオン傘下の神戸北野スイーツ&カフェ(神戸市)の冨田大介ゼネラルマネージャーは「国際色豊かで新旧・異文化が混ざり合う場所をひとつのテーブルと捉え、“食”にフォーカスして新しい価値創造にチャレンジした」と意図を説明する。その言葉通りに館内にある7店舗はどれもクオリティーの高い食の専門店だ。
1階にはベーカリーのほか、著名パティシエが手掛けるチョコレート店、国内トップ焙煎士とバリスタがいる焙煎所、日本酒ショップ。オリジナルスイーツショップも春に開業する。2階には「兵庫五国」の食材を使ったバーラウンジ併設のレストランが揃う。東京や大阪で評価された店が過半だ。
3月上旬の平日午前9時にNOSTAを訪れると、すでに近所の女性がベーカリーでパンを吟味しており、老夫婦がカフェでコーヒーを楽しんでいた。昼になるとゆっくりランチを楽しむカップルや女性グループが2階のレストランを利用し、午後からはかつて講堂だった3階レンタルホールでセミナーが開かれていた。
一日を通し、地域の人々が館の使い勝手の良さにすっかり馴染み、人を集める施設になっていることがわかった。有名バリスタのコーヒーを飲んでみたいと何度か1階の端にある焙煎所を覗いたが常に満席でチャンスを逃すほどの人気ぶりだった。
1階中央の大カウンターのカフェとゆったりしたイートインスペースは、午前9時には間の抜けた空間でカウンターの大きさが気になったが、時間と共に来館者が増えてくる。
カウンターでスタッフがキビキビ働き、イートインスペースに老若男女が入れ替り立ち替り出入りする情景はネット動画の「北野ドラマ」を見ているようで「ワンテーブル」の意味する街のステージ化が理解できた。
旧校庭は24時間営業の大型観光バスも止められる駐車場として活用されており、市内を循環するバスの停留所もある。神戸市からの要請もあり、旧校舎を利用した施設は、小規模だが駐車機能は十分で町のパーキングインフラとして重要な役割を果たしている。
運営会社の親会社であるジーライオンは輸入車と国産車の正規ディーラー事業を主とする。物づくりに長けた会社や店舗の再生支援を複数手掛け、老舗旅館や真珠店、陶磁器会社や紅茶専門店などを蘇らせてきた。NOSTAもこの企業ポリシーから生まれたプロジェクトだ。
意識が高い事業者のつくる館の雰囲気から、余裕を感じとる感度の高い人々がNOSTAを上手に使っている。順調な滑り出しを切ったNOSTAの今後のひろがりが楽しみだ。
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2025年(令和7年)3月26日(水)掲載)