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2021.02.01

不動産フォーラム21

男も女も関係なし ― ジェンダーレスという流れ

  

●「男だろ!」に呆然とした年始め
 自粛ムードの年末年始。外出もせずに自宅に引きこもりテレビ番組を楽しみました。

 

 新年恒例の箱根駅伝は大逆転劇が展開されドラマチックな観戦となりましたが、優勝大学の名物監督が伴走車から何度もはっぱをかける「男だろ‼」の大声には呆然とさせられました。“ジェンダーレス”が叫ばれ当たり前になりつつある現代に、公共的な放送で「男だろ!男ならがんばれ」的な気合いの入れ方や激励のやり方が聞こえてきたことに驚いたのです。

 

 後で知ったのはこの名物監督さんは以前から熱血漢で、いろいろな言葉で選手を励ましてこられたそうで、当日も「男だろ!」のひと言が選手の心に火をつけ優勝を導いたとネットで評価されていましたから名物監督のインパクトワードであったのだと思いますが、公には聞きたくもない違和感を覚えるシーンでした。

 

 もう一つ引っかかるテレビ番組がありました。これも年越し恒例ご長寿番組の紅白歌合戦で、何十年も見続けてきたプログラムです。去年は番組始まって以来初の無観客開催で従来にない演出等が意外とおもしろく高視聴率となり、楽しませてもらった感がありました。

 

 しかし、番組のエンディングで「紅白どちらが良かったでしょうか?」という司会者の掛け声に、一瞬でテンションが下がり、「いまだに紅組と白組の男女対抗形式なのか」と違和感があり「すばらしいアーティストたちの楽しいエンターテイメントだから男女も勝ち負けも無用でしょ」と感じました。

 

 ショーの途中では20代の男性アーティストが「ところで僕は紅組なの?白組なの?」などという声も聞かれたぐらい、今の音楽シーンもさることながら、世代感覚としても男女対抗は古すぎるぐらい過去の感覚なのではないでしょうか。例年の「〇組の勝利」は定番の演出なのですが、時代の価値観としては「男だろ!」と同じくらい時代にズレズレの落ちでビックリしました。

 
 

●ジェンダーレスという新しい流れ
 ジェンダーレスとは生物学的な性差にとらわれた固定概念を持つことをやめ、社会的・文化的な性差をなくそうという考え方を表した言葉で、近年社会のいたるところでこの言葉と意識は使われるようになってきました。

 

 例えばファッションの世界ではすでに10年くらい前からジェンダーレス的なデザイン傾向が表現され始めており、今では有名ブランドのデザイナーや若手デザイナーが男女差を排除したコレクションをシーズンごとに提案し注目されています。

 
 日本ではすでに若者の人気ブランドとし普及するジェンダーレスファッションも一般化していて、メンズ・レディスという概念を持たず、その人の個性を発揮できるブランドが人気を得ています。

 

 あるデザイナーは「ジェンダーを問われるのはアンダーウェア(下着)をデザインする時だけ」と言い切るほど、男らしさや女らしさという感覚でファッションを語る時代は終焉を迎えつつあります。

 

 イギリスの高級百貨店セルフリッジズは2018年からアジェンダー(ジェンダーレスの意)なメガネ売場を開設しています。トイザらスは2016年から米国でおもちゃの男女別売場を廃止しています。日本では文具大手のコクヨが性別欄のない履歴書用紙を販売することがニュースになりましたし、子供たちのランドセルはすでに2000年代初頭から男女差をなくしたカラー展開になっています。

 

 また、コロナ禍でも売上好調のコスメ業界では、女性客に加えて男性客のスキンケアニーズが高まったり、他者に好印象を持たれるよう男性のメイクアップ商品が注目され、売場・売り方も性差なく誰でもが気軽に立ち寄れる演出に進化しています。

 

 学校の制服もジェンダーレス制服を採用する学校が増加傾向にあり、従来の男子生徒はスラックスにネクタイ、女子生徒はスカートにリボンといった性別を基にした制服ではなく個人の感覚で、パンツ、スカート、キュロット、ネクタイ等が自由に選択できるシステムに変える学校が増えてきています。

 
 

●日本も変わり時
 こんなにリアルな日常にジェンダーレスの流れは登場しているわけですが、男女の役割分担をまず家庭から廃止しようと始まっている男女の育児休業取得率は、女性の83.0%(2019年度)に比べ男性は7.48%とまだまだ低水準です。また職場では、先進国の中でも女性管理職の比率はG7の中で最下位(12%。ちなみに1位は米国で39%(2018年))という結果も報じられています。

 

 ジェンダーレスとは性差にとらわれない個人の能力や感性で自由に生きていける社会の実現を目指す考え方ですから、家庭でも職業でも消費市場でも社会全体で意識改革とその実現が進むようにしていきたいものです。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2021年2月号掲載)