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2017.01.04

不動産フォーラム21

深夜のメガドンキ

 

 私は東京都内の古い町に住んでいます。昔からの住人が多く町は高齢化の一途をたどっています。町中には築年数のたった木造家屋が残り、古い商店街には婦人服店やお茶屋、手芸品店、金物屋などが残っています。歩道も老人が多く往来するので乱暴には歩けません。
 そんな町に数ヶ月前に異変が起こりました。なんと「MEGAドン・キホーテ」が開業したのです。

 

粉歯磨きがパーティーグッズに

 実は「MEGAドン・キホーテ(以下、メガドンキ)」が開業した場所は地元に52年前からあった「ダイシン百貨店」という大型小売店が営業していたビルです。このダイシン百貨店は、百貨店という華やかなイメージではありませんが、食料品だけではなく粉歯磨きやタワシ、座椅子までニッチな商品を取り扱うまさに百貨の店として、長年地元客から愛されてきました。ダサい見せ方にダサい商品ではありましたが、不動産の高い都心部でゆったりとした書籍スペースを展開していたり、最上階には町が見渡せ何時間いても怒られないセルフレストランがあったりと、のんびりとした地元店だったのです。

 ダイシンは「お客様が望むなら粉歯磨きでも何でも揃えます。高齢者がターゲットです。」と常にPRしていました。前述したようにこの町は古く老人が多い町ですから、ダイシン百貨店は52年前にこの店へ来店したお客様をそのまま卒業させずに顧客化していったように思います。

 「卒業生は出さなかったが新入生は?」ここが問題なのですが、残念ながら老人の町なので新入生はあまり生まれずに、経営が厳しい状況になったところを2016年にドンキホーテホールディングスが経営権を取得し、ダイシン百貨店は閉店となり「メガドンキ」に変わりました。

 「メガドンキ」は何でもあれの大型店です。さすがに粉歯磨きはありませんが、パーティー用の変装マスクやケーキ形の帽子など、興味をそそられる面白いものがたくさん売られています。私がなじみだった昔の書籍コーナーは「メガドンキ」になってDIYにかわり、仏壇と自転車の売場になってしまいました。ドンキは仏壇も売っているのです。これも興味深いことでした。

 

深夜のドンキに若い影

 ドン・キホーテは幹線道路沿いにあるのがセオリーだと思っていたので、この町にドンキが誕生したのは大きな驚きでした。それはこの「メガドンキ」が上り下り各1車線の町の生活道路とおぼしき道沿いに出店したからです。また老人の町に「メガドンキ」は不思議ですよね。

 ところが、開業以来、深夜でもこの道路を車で走っていると「メガドンキ」にかなり車が入場していきます。ある時、25時頃になっていましたが、前の車につられ私もメガドンキに入ってみたところ、予想外に多くの来店客が買物をしていまいた。それも全員が20代30代の若い客層でした。レジに並ぶ人たちのカゴの中をのぞくと、ワインやビールやおつまみを買う女子グループ(これからホームパーティ?)、パンやお弁当に飲料の男性(残業帰りのサラリーマンのよう)、野菜やら肉類を買う若夫婦(まるで夕方の買物のよう)、大量のお菓子を買う女性たち(中国の人たち)、アルコールを買う黒服の男性(業務用らしい)などなど、日中とは違う買物シーンです。2階の雑貨フロアでは、まるで昼間のように若いカップルや若い女子友グループが服や化粧品を物色してキャーキャーはしゃいでいます。とても深夜25時とは思えないショッピングでした。
 古い老人の町と思われていたエリアに実は若年層の居住者も多くいました。古い町ではあるが東京駅まで15分の立地。ここを穴場とするシングル層や若いファミリーが多く住んでいたことが見落とされていたのですね。さらにドンキのネームバリューがあれば隣町からもまた深夜でも人は呼べるわけです。パワーがありますよね。
 そして、ドンキならではの店内は迷路。「レジはどこなの?」と思ってウロウロする私の脇を「レジどこなのよー?」と言い合いながらすり抜けるギャルたちがいました。それにしてもレジのありかがわからなくても腹が立たないのはドンキくらいかもしれません。ドンキで古い町が変わりそうです。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2017年1月号掲載)