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2019.03.01

不動産フォーラム21

昭和のビジネスセンターが 今は癒しの場に。

 

●高度成長期の巨大オフィスが“未病”という癒し施設に変身
 東京から車で1時間。富士山が臨める神奈川県大井松田に“未病”という国内でも稀なテーマを掲げる「ビオトピア」という施設が昨年春に誕生しました。“未病”とは聞き慣れない言葉ですが私達の心身の健康と病気の間の状況で、より健康な方向に向かわせることを未病改善と考え、それを啓蒙する施設が「ビオトピア」です。

 

 実はこの施設は高度成長期の1967年に東京一極集中を解消しようと東名高速道路大井松田ICのそばに大手保険会社が本社機能の一部として建設したもので、東京ドーム13個分に相当する60haの巨大敷地に75mのオフィスビルや体育館や桜並木に竹林等を整備し3,100人もの社員が勤務する理想的ビジネスセンターでした。開発当時、東京から大井松田まで何百台ものトラックが荷物を積んで移動したというニュースが流れるほど先進事例として話題になったそうです。
 その広大な敷地を2012年にコーヒー通信販売会社ブルックスホールディングス(HD、横浜)が取得。たまたま神奈川県が県西部活性化のため2市8町で“未病改善”をテーマに行政と民間が連携したプロジェクトを計画し、未病施設を求めていたところ、大井町とブルックスHDによる提案が採択され官民が組んで「ビオトピア」が生まれました。

 
 

●社員食堂がお洒落なマルシェに
 さて「ビオトピア」はどのような施設なのでしょうか。中心になるのは「マルシェ」という所で県が運営する「me-byoエクスプラザ」とレストラン&カフェが3店、キッチンスタジオ、ガーデニングショップ、ペットショップに加え地元特産品を扱うマルシェを上手に組み合わせています。このマルシェは大きな平屋の建物ですが保険会社時代は社員食堂だったものをリニューアルし、ナチュラルモダンな自然光を感じさせるお洒落な空間につくり変えました。
 「me-byoエクスプラザ」では2市8町の紹介コーナーや自身の体力や健康状況がゲーム感覚で診断できるアイテムを揃えています。「瑞穂ノ里」という和食屋は地元の食材を使ったビュッフェ形式の鍋を提供していますが、「me-byoエクスプラザ」で身体チェックをしたデータに基づいた自分のための鍋の具材選びができ、お年寄りやファミリーに人気があります。またフレンチレストラン「カフェサンジャック」はフランス国家最優秀職人章(M.O.F)を受賞したシェフが監修したレストランで、鄙には稀な洒落たインテリアの店でこだわり食材の食事やパンの販売、お茶が楽しめます。
 健康状態をチェックし身体によい食事を楽しみ地産の買物をすると、ゆったりした時間が流れて身体によいだけではなくストレス解消に効果ありだと感じました。

 
 

●唯一無二の財産「自然」を活用
 「ビオトピア」の一番の財産といえるのは敷地の大半を占める森林です。ここでは森林セラピーを積極的に展開しています。森林セラピーというのは森林浴効果でストレスを改善し心を癒す活動のことで医学的にも効果があると実証されています。ここでは専任のセラピストが複数人いて森林浴ワークショップを月に2回開催しています。効果を期待して大企業から社員の疲労回復の研修にプログラムしたいという問い合わせが近年増加しているそうです。セラピスト同行の森林浴は専門家の誘導で五感をフル稼働させる森の楽しみ方の具体的指導を受けられるので、研修として本格的に検討する企業があるほど癒し効果は大きいのだそうです。
 広大な森林の中には真冬でも青々とした竹林や丸の内のお堀から移植した巨大な夫婦銀杏の木や桜並木などがあり、立派で管理された自然は見応えがあり昭和時代の隆盛がうかがえます。

 

 今の「ビオトピア」は1期開発で、2期として2年後に温泉施設を計画。3期は宿泊施設をつくり連泊による2市8町にまたがる未病改善の地域回遊の実現を目指しているそうです。
 高度成長期に企業繁栄のユートピアだった地が今は人々の心身癒しの地に変わろうとしている。まさに時代の価値変化を感じる土地活用事例だと思います。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2019年3月号掲載)