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2020.11.05

不動産フォーラム21

“新”より“フツー”がおもしろい。-渋谷2020年の様子-

  

●横丁ディスタンス!?
 まずは写真をご覧ください。密・密・密のスーパー密状態です。けして過去の写真ではなく、10月の台風14号が東京に接近しつつある雨の木曜日に撮ったものです。
 

 都場所は渋谷のミヤシタパーク。今年8月に開業した公園とホテルと商業が複合された都市施設の1階にある「渋谷横丁」という飲食街です。

 
 知人から「シブ横が若者でいっぱい。合コンにも使われているらしい」と聞き見学に行くと、若者で大盛況。カップルよりグループでにぎやかに北海道から九州・沖縄までのラーメンやどんぶり物などの日本中のソウルフードを楽しめるお祭り騒ぎな“たまり場”になっています。

 

 ソーシャルディスタンスなんてどこ吹く風のギシギシ混み合う横丁ディスタンスの活気でみなぎっています。そして帰り道に「渋谷でこんなパワフルなにぎわいを見たのは何年ぶりだろう」と考えさせられました。

 
 

●渋谷から原宿に流れが生まれる
 ミヤシタパークは元は宮下公園という渋谷区が管轄する公園であり、JR山手線の線路と明治通りに挟まれた細長い場所で1階が駐車場で一帯はいつも薄暗いエリアでした。そこにおしゃれなブティックやレストランや前述の横丁ができ、公園は4階屋上にスケートやボルダリング等ができる新公園として生まれ変わったのが今年の夏です。コロナ禍で宣伝もない静かなオープンでしたが、「渋谷横丁」や公園の新しさが話題となり、日増しに若者が集まりだしました。

 
 渋谷は駅を基点にして原宿方面に山手線で分断され、109やパルコや西武百貨店がある山手線西側がにぎやかで話題の中心でしたが、ミヤシタパークの出現が呼び水となり山手線東側の明治通り方面に人の流れが増えてきました。

 

 ミヤシタパークから明治通り沿いにはトレンドファッションの店が多数軒を連ねて、10分も歩けば原宿にたどり着きますし、少し奥のキャットストリートにも今どきの店舗が集積をしていて、ブラブラ歩いていると表参道に至ります。従来は、駅から宮下公園あたりまでがさみしくて人の流れをまばらにしていましたが、ミヤシタパーク開業で渋谷から原宿につながる“ニューストリーム”が生まれました。

 

 逆に、パルコのある西側はひっそりとし、若者の姿もまばらでぱっとしないエリアとなっています。 

 
 

●“新”に反応薄な都会人
 情報通の読者は「ひっそりなんて嘘では?渋谷は昨年か新施設開業ラッシュだったはず」と思われたはず。その通りで、2019年秋に駅直結の「渋谷スクランブルスクエア」と「渋谷パルコ」と「渋谷フクラス」がオープンして渋谷の新スポットとなりました。

 

 この数年、新しい施設が開業してお客様がワサワサと行列をなして来館するオープン景気が年々短くなり、3ヵ月もたたぬうちに集客力が衰え下火になる傾向が強まっていましたが、昨年開業の渋谷新スポットは開業直後にコロナ禍となり、休館や時短営業を余儀なくされた影響もあり、オープン景気が一瞬であったかのように、今は静かな存在になっています。

 

 しかし、街の空気や人の気配をみていると、けしてコロナが集客のマイナス要因ではなく、人々の感性が違う方向に向かっていることに気付きます。

 

 昨年秋の3施設の謳い文句には「日本初〇店、東京初〇店のニューブランド」とか「次世代型商業」「特別なショッピング体験」という紹介のコピーが並んでいます。いままでは初上陸、新業態、編集方法を変えた次世代商業という手法で商業を計画すると人々がついてきてくれたのですが、世界中の情報も世界中のモノもネットによって入手でき疑似体験できる今となっては“新”に反応をする人が少なくなってしまいました。“次世代”も“特別な”も仕掛ける側の価値でありお客様にとってはフツーな感じなのかもしれません。

 

 若い知人いわく「ほらほら、新しいものを見せてやるぞ、的な上から目線の施設がいやらしい。私はフツーな感じが楽しめる」と言っていましたが、この感覚が渋谷の今の様子を物語っているように思えます。

 
 消費者心理はますます複雑化してきました。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2020年11月号掲載)