繊研新聞
新しい集客エンジンは“食物販”-商業施設のMD構成に可能性-
長年、SCの集客エンジンはファッションが軸とされてきた。しかし、流行より自分のライフスタイルを重視する消費者が主流になり、SCに新たな集客の可能性となる新カテゴリーが生まれている。
交流、体験を志向
ファッションの低迷が長期化している。マイナス要因は、若者層のファッション離れ、安価衣料品のデザイン性と質の向上、年齢や公私の境のないカジュアル衣料の台頭、ブランドの同質化、ネットショッピングの成長と複数ある。決定的な事はファッションを嗜好(好んで親しむ)品として捉え楽しんでいた消費者の志向(心が目指して向かう対象)が変わり、今は着飾る事から人との交流や楽しみ体験に時とお金をかける時代になったことだ。
消費者調査では旅、趣味、食料品、情報端末への消費が増え、外食、衣料、酒への消費減少の傾向が続いている。消費者の価値観が変化し、SCでは従来のファッションスタイリングを起点としたMD構成から、食、住、遊、休、知、美といったライフスタイリングを起点とするMD構成に視点を持つべき時代になった。
注目“食”の要素
多岐にわたるライフスタイリングの中で“食”が最も消費者の心を捉えSCの新集客力として注目されている。その要素は、
①頻度がデイリー
ファッションはバーゲンの前倒しで、シーンズン初めに1度、バーゲン時に1度の1シーズン2回の来店頻度という流れが出来てしまった。しかし食物販はデイリー、飲食はウイークリーな来店頻度を生み出すことが可能である。
②ターゲットは老若男女
“食”に対する関心は大人から若者まで、男性、女性、誰でもが食に目がない。特にファッションは男性客の取り込みにどこのSCでも苦労するが、食物販や飲食の充実次第で男性の単独客をも集客できる。
③客単価アップの工夫領域大
世の中はグルメ志向でおいしいモノ、新しいモノ、旬なモノに食であれば数百円程度でトライができる。余裕のない若者でも250円の有名クロワッサンは買って食べるし、高校生でも2,000円台のパンケーキに挑戦する。そこにこだわりや物語性があると消費者が気軽に高級品に手を出しやすい工夫領域がある。
日本人は食に対する好奇心が強く世界の食文化に関心が高い。また四季があり、地域に根差した食文化も豊富である。スイーツ、グロサリー、デリカテッセン、ビバレッジなど、多岐にわたる商材を物販や飲食で展開する事業者が多くいる。特に最近は百貨店勢力の弱まりの中でSCに進出を計画する食物販事業者が増えている。
ファッションと融合
SCはライフスタイリングの提供ステージとして衣だけではなく、食、住、遊、休、知、美と、消費者が質の高い生活を志向するほどに従来のファッションMDと他カテゴリーを融合させることが魅力的なSC創造の鍵となる。
ではどのようなMDミックス手法があるのだろうか。
一つ目に、ファッションを主軸に話題性あるスイーツショップやワイン専門店や有名ベーカリーなどを導入する食のアクセントMD活用だ。横浜ルミネは有名チョコレートブティックを、札幌ステラプレイスではベーカリーとワインショップをファッションMDと並列に置き、館のブランディングに役立てている。札幌のベーカリーは開店後、世界ナンバー3の集客力を発揮した。
二つ目は積極的に総合食材店を大区画でキーテナントとして迎えファッションMDに組み込む手法。この4月に開店した福岡ソラリアプラザではアジア最大規模の「ディーン&デルーカ」(D&D)と「ザ・シティ・ベーカリー」を導入し館のファッションMDに新主役として加えたダブルキャストMDで注目を集めている。D&Dのような有名海外総合食材店だけではなく国内の同様業態や提供力のある大型物産展などをSCで発掘すると新客創造のトリガーとなり館の回遊力を生む。
三つ目は食物販・飲食→生活雑貨→文化・ヘルス&ビューティ雑貨→サービス→ファッションという食から生活全般へのライフデザインをMDイメージで編集し連結させていく手法である。まだ実現はされていないが近い将来トライするSCが出現するだろう。
最後に、近年魅力的なSCは必ず小まめにカフェを配置して顧客のお休みどころを多く提供している。開放的なカフェシーンを環境としても活用し好感度を上げている。これも。“食活用”への新しい目線である。
“食”という新カテゴリーの積極的な起用はこれからのSCにとって新集客ステージの開拓となろう。
(記:島村 美由紀/繊研新聞 Study Room 2015年(平成27年)6月2日(火)掲載)