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2018.05.15

繊研新聞

揺らぐSCに新たな視点 ―伸び盛りは「街に暮らす」受け皿SC―

 

 SCが揺らいでいる。90年以降の景気低迷期にも伸張し、今や小売販売額で22.4%(約31兆円)シェアを占め、今や幼少期からパルコや二子玉川SCになじんだ世代が消費の中心。しかし、2~3年前から勢いが鈍化し、特にファッションビルは都心・郊外問わず、ファション比率が高い館ほど暗雲が立ち込めている。

 
望めない新陳代謝
 原因の筆頭はECの劇的普及だ。物販系分野では小売販売額の5.4%(8兆43億円=16年、経産省推計)のシェアから、近い将来は10%、20%へと高まり、勢いはとどまらない。次いで、新しい価値観を持つミレニアル世代が消費の舞台に登場したことだ。ネット環境に親しみ、コスパ志向が強く、所有欲は薄い堅実派。個人志向が強い中にも社会貢献や自然を尊び、他者との絆を重視するモノ消費に淡白な世代。従来SCが主力ターゲットだった若年層や若いファミリーとは異質だ。ファッションではF1(20~34歳女性)層が消費のけん引役だが、ミレニアル世代のF1はコスパ重視の割切り、お手軽ファッションで満足する。
 女性の自立意識も服装を変えた。10年前の“モテ服、好感度OL服”は男性目線や職場の融和を重視した表れだった。今のF1は他者と共調しつつ、自分軸でファッションをとらえ、身体も財布も無理をしないノンストレスファッションを重視する。シェアリングサービスやフリマにも関心が高い。結果としてファッションが低迷した。
 ファッションが軸のSCはリニューアルが困難だ。アパレル不況で出店意欲が低く、新ブランド開発も少ないため、リニューアルが進まない。地域初出店やブランド1号店を狙えた実力派SCでも、リニューアルを諦めざるを得ない。
 3年~5年スパンでブランドの新陳代謝をして館の鮮度を保持してきた、今までの手法が通用しなくなった。SCの大転換期を意味する出来事である。

 

キーは「食・健・美」
 ファッション低迷の時代にキーになるのは「食」である。従来の食物販をさらに充実し、ファッショナブルなスイーツ、専門性を極めたグロサリー、酒類、トレンド性のあるデリカテッセン、ブーランジェリー、地方物産などを高度な編集で集積。食卓を彩る食の道具類や家具、キッチン雑貨、書籍など“美食”“楽食”を彩るMDとして、奥行と幅を持たせたテーマだ。ターゲットも老若男女、国籍問わず「五感で確かめたい」という本能的購入意欲が、ECと差をつけるリアルショップの優位性となる。
 問題点は大手プレーヤーが限られ、多くのテナントは小規模企業か家族経営でSC出店経験に乏しい事だ。また、食は「デパ地下」が主舞台だったので、SCと百貨店との違いを理解しないテナントも多い。また、SCに関心を持つ事業者は多いものの、人材不足が深刻で、店舗管理が安定しない場合もあり、デベロッパーの運営力が問われる。SCでは新分野であり、地道な開拓努力が必要だ。
 また、人生100年時代を迎え、「健・美」というファクターに人々、特にお金と時間に余裕がある大人世代の関心が高く、客単価も上あげやすい。健康促進のためのボディーケアやコスメの雑貨やサービス業態は、今でも売上が伸びている。新しいテナントやブランドの進出もあり、SCにはありがたい存在だ。

 
“際エリア”で中規模
 駅立地の大型SCの優位性は不動だが、最近は都心の“際エリア”(郊外ではなく都心の際の住宅地となる境目エリア)に立地する中規模(売場面積5,000坪前後)SCの支持が高まっている。生鮮三品中心の食物販、ベーカリーや花屋、生活雑貨、ドラッグ、クリニック、ヘルス&ビューティ、お教室、本屋、フードコート、カフェなどの構成でまさに“生活充実型MD”のコンパクト集積。日常生活を充たす気の利いたMDに加えて、ひと息つくリビング、勉強や読書の書斎、一人ごはんのキッチン、友人と語らいの客間、子供の遊び場などの代わりになる。生活時間を街の中で支え満たしてくれる機能と空間を持った居心地の良いSCだ。わざわざ行く非日常の大型SCに対し、家に近く親しみを持て「街の中で暮らす」受け皿となる、小じんまりしたSCが評価されるのは、消費者の内面の生き方充実という価値観変化の証であろう。

 

コト消費は入り口
 コト消費が課題になって久しい。取組んだというSCを見ると、理美容サービスやスクール、飲食店という従来の非物販MDで肩透かしにあう。本屋にカフェが併設され雑貨が売られていても、もはや当たり前のスタイルだ。
 コト消費を一般的業種業態で実現させるのは幻想だ。本来SCは店舗の集合体でモノ売りが基盤。ECにはない、SCの存在価値を消費者に認知させ、来館させるためには、モノ消費に結び付く入り口づくりとしてのコト起こしを頻度高く、小まめに実施することが「モノ消費を活性化するコト効果」ではないだろうか。
 モノの買い方も世代も変化が目まぐるしい時だからこそ、SCには一層の工夫と地道さが必要な時だ。

 

 

(記:島村 美由紀/繊研新聞 Study Room 2018年(平成30年)5月15日(火)掲載)