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2022.10.19

日経MJ

心地よい空間 名建築の面影 -丸栄の歴史継ぐ「マルエイガレリア」-

  

 長年、名古屋市民に愛され続けてきた百貨店、丸栄(名古屋市)の閉店から4年が経過した2022年春、跡地に商業施設「マルエイガレリア」が開業した。“食と暮らしを奏でる心地よい空間”をコンセプトに、日常生活に彩りを添える個性的な雑貨店や食品店を集め、求心力を高めている。

 
 

食と暮らし彩る個性派店舗

 名古屋最大の繁華街である栄地区の中心部にできた敷地面積4,900㎡、地上3階建ての建屋がマルエイガレリアだ。

 

 1953年に完成した前身の丸栄の建屋は、近代建築家として高名な村野藤吾が設計し、当時の建築学会賞も受賞した。マルエイガレリアにはこの由緒ある建物の面影をちりばめている。

 

 たとえば目抜き通り沿いのコンクリート外壁に縦方向のラインを強調する意匠を施していた丸栄の特徴を、ガラス壁に配置した二重のアルミサッシで表現。四角い建物の角を斜めから垂直に切り取ったような西側のエントランスの仕様も踏襲した。外壁の一面を覆っていた緑や茶などのタイル装飾の一部は地下街につながる通路に残している。

  

 壁面をガラス張りにしたマルエイガレリアは、丸栄になかった解放感も演出している。また西側の外壁面上方には縦10m、横27.5mの大型発光ダイオード(LED)ビジョンを設置。デジタルアート集団、チームラボ(東京・千代田)のCG(コンピューターグラフィックス)作品を流して街に活気をもたらす。

 

 施設内には36のテナントが入居する。2階には無印良品の大型店があり、それ以外の食品店や食品店も個性派ぞろいで来訪客を楽しませる。

 

 1階の自然派スーパーマーケット「Pantry」が名古屋初進出。素材厳選で安心安全の食にこだわっている。このほか、「名古屋めし」に力を入れ、味噌カツ丼や天むすなどをリーズナブル価格で提供するデリカキッチン、グラノーラの量り売りの店や人気おはぎ専門店でイートインコーナーも併設した「OHAGI3」などもある。
飲食店では1階にある丸栄直営の「KW THE KITCHEN WONDERLAND」が人気だ。

 

 西側エントランスを入ってすぐにカフェとレストランがある。サラダやキッシュ、パン、シュークリームなどのスイーツなどが陳列棚などに並び、ニューヨークのトレンドカフェの雰囲気で思い思いにくつろげるように店内を広く使って大カウンターやテーブルを配置した。

 

 大カウンターではタブレット端末で仕事をしながら食事をとるビジネスマン、窓側レストスペースではおしゃべりを楽しむ母娘などランチ時の光景は様々だ。夜になるとレストランはパーティー会場にもなり、地域の交流の拠点としても存在感を高めている。

 

 「関連企業のホテルからシェフを招き、こだわり地産食材を質よくリーズナブルに提供している」と丸栄の加藤隆弘取締役は胸をはる。

 

 このほか3階のフードホールは飲食店情報サイトを手掛けるぐるなびが運営している。釜炊きごはんとハンバーグを提供する食堂や、ブランド卵を使ったパスタ店などこだわりの10店をそろえた。

 

 丸栄は、地元密着の百貨店として親しまれてきた。しかし2000年にJR名古屋高島屋が開業するなど競合店が増える中、地下食品売り場のリニューアルや10代~20代女性客向けのファッションブランドの導入などで差別化を図ってきたが、客も徐々に減少。建物の老朽化もあり、惜しまれながら18年に閉館した。

 

 マルエイガレリアは丸栄の親会社の興和から、大和ハウス工業グループの大和ハウスリアルティマネジメント(東京・千代田)が10年間の暫定借地権を得て建設。運営も手掛ける。

 

 「マルエイというブランドを施設の屋号でも受け継いでいる。人々の丸栄への信頼は厚く、1日も早く“栄といえばマルエイガレリア”と思ってもらえるようなブランドを確立したい」と海老根一行支配人は力強く語る。

 

 名古屋は27年以降にリニア新幹線の開業を控えており、これに合わせて栄地区では大型開発が複数進行している。10年後には興和が主体となったマルエイガレリアを含む周辺の一体開発も検討されるという。これからの10年とその後の街の進化が楽しみだ。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2022年(令和4年)10月19日(水)掲載)