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2018.06.15

販売士

待ちの忍耐力

 

“待つ”を試される都会ぐらし

 一昨日の出来事。60日前に申し込んだ人生初の内視鏡検査を都内有名病院で受けました。9時から午前中いっぱい検査のための準備があり、12時半に薄い診察着に着替え血圧・脈拍を測りスタンバイOK。すぐにも検査が始まるかと思って寒さを我慢して待つこと1時間半。痺れを切らせて看護婦に声を掛けると予定表を見て「お待ち下さい」私はその一言で私の存在を認知してもらったと思ったのですが待てど暮らせど何もなし。やがて聞こえてきたのは、スタッフが大声で「医師が不足してるから内科にヘルプを頼んだのに誰も来ない。何日も前から頼んだのに音沙汰なし」の文句会話でした。「医師不足か…大丈夫かな」と不安を抱く私が診察室に呼ばれたのが3時。このスタッフに「待たせすぎる」と言うとプイとそっぽを向きながら「すいませんネェ」の一言。
 60日間も検査日を待ち薄着で150分も待ち“待ちは忍耐力だ”と痛感しましたが、この病院スタッフもヘルプの医師を待っていたんですね。“ダブル待ち”の私たちだったわけです。
 都会暮らしは待つことが山のようにあるものですね。

 

春は研修・新人という名のもとの忍耐力

 年度始めの春から初夏にかけて“待ちの忍耐力”を毎年試されるのは、新人・研修というネームタグを付けた人たちによる接客やサービスです。スーパーのレジ等で研修タグのスタッフがポイントカードの扱い方が分からず担当者を呼び、お客様を待たせながら研修を始めるという状況に出くわします。なるべくそれらしき列は避けるようにしているのですが、当たってしまう場合が多々あります。先日、知人は担当者が新人に研修の続きをレジで始めてしまい知人は待たされ続けて立腹したそうです。“新人あるある話”ですね。
 いつ頃からでしょうか。この研修や新人というネームタグを付けると全ての未熟さを客に対して了承してもらっているかのように、未教育スタッフを現場で使うことが許されるようになったのは?「まあ新人さんだから、若いししょうがないよね」という客の寛容な気持ちを初めから前提にしている接客はいかがなものかと思います。私たちも寛容になれる時とそうはなれない事情をもつ場合がありますから。
 と、そんな思いの春先に渋谷のファミレスに食事に行った時のこと、手際の悪い「新人」さんに接客されました。「またか…」と思った矢先、注文を取りにきた新人さんに店長が同伴して「申し訳ありません、お客様。新人なもので不手際がありますが、慣れさせるために少々お付き合いいただけますか」と言われました。「もちろんですよ、がんばって」の返事をした私は、そうか新人・研修とういう春の忍耐儀式にはこの事前のエクスキューズがないから気分が悪かったのだと思いました。このファミレスで食事をしている間、新人さんが上手にやれているか気になりずーっと動きを見守ってしまいました。まるで親心を持ってしまった気分です。「ご協力を」のこの一声で忍耐から寛容に変わる気持ちがあるのですね。

 

待たせても好感度

 待たされる場面は日々の暮らしの中で多すぎるほど皆さんが経験をしていますのでここで書き連ねるのはやめにして、待たされることが楽しかった経験についてお話をしましょう。
 駅ビルの名店街にある和菓子屋で小さな手土産を購入した時のこと「いま包装をいたしますので豆茶を一服いかがですか」とその店の商品でお茶を入れ、一口大のお菓子とともにお盆に乗せて出してくれました。座る席があったわけでもありません。ガラスケースをはさんだ接客スタイルの中での気配りです。「まあ美味しい豆茶ですね」「当店の商品です。よろしければ次回お試しください。」こんな気のきいた会話ができると買物も心豊かになります。
 クリスピークリームドーナツは2006年にアメリカから日本上陸をして大人気になったドーナツでどの店でも長蛇の列となりましたが、この時もプレーンドーナツを行列の人々に1つづつ手渡し「召し上がってお待ちください」という気のきいたサービスを展開し好印象を与えました。お客様を待たせるのもちょっとした心掛けで気分がよくなるものなのです。
 さらに混雑するドトールでは時たま注文→商品準備→会計という流れを合理化させ、行列のお客様に次から次へ注文を取りどんどん商品準備をして、会計の段階では商品ができ上がっているという超高速な離れ業を展開する店舗もあります。これもお客様を待たせずお店にとっては客を上手にさばく業だと思います。

 

 最後に私が素晴らしいと思った待たせ方をお話ししましょう。レストランやお店で多忙にしているスタッフに「すみません」と声を掛けると百発百中で「お待ちください」と声が返ってくるものです。が、ある飲食店で「すみません」と声を掛けると「ハイただいま!!」と返事をしてくれたのです。店のあちこちで「ただいままいります」「ハイただいま!!」と聞こえてきて、誰一人として「お待ちください」と言うスタッフはいませんでした。この言葉は魔法です。「ハイただいま!!」と言われると「私のことを受け止めてくれている」という安心と信頼につながりますから。たとえ待ち時間が同じであっても気持ちよく待てるものだとお店の知恵に感心をしました。

 

 

(記:島村 美由紀/販売士 第29号(平成30年6月10日発行)女性視点の店づくり⑭掲載)