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2021.03.10

販売士

巣ごもりで知る近隣店舗の好感度

  

●灯台下暗しで近所を探訪
 長引くコロナ禍で小売業は業態による業績格差が大きく広がっています。コンビニエンスストアや百貨店・ショッピングセンターなどは減収減益となり厳しい局面に立たされていますが、食品スーパーやドラッグストアの多くは2桁以上の大幅増収となっています。昨年来の外出自粛で買物が自宅近隣に限られたことから、食品や消耗雑貨などの必需品の買い場を近所の食品スーパーやドラッグストアに求めた人々の消費行動が売上増をもたらしていることは周知の通りです。
 
 都内のある食品スーパーでコロナ禍の2020年秋に来店客調査を実施したところ、2019年同月に比較し来店客数は1.41倍に増えたことや商圏が約1km強に拡大したことが分かりました。これは興味深い消費者行動としてその店の幹部は大いに関心を持ちました。
 
 商圏拡大を導いた要因として、地域の競合他店と比較しこの食品スーパーは地域一番の大型店で食品だけではなく生活雑貨やドラッグ商品やペット商品なども扱っていたことから、今まで馴染みのなかったお客様もワンストップショッピングが可能な店として来店するきっかけになったと分析できました。コロナ禍でこの店を知った新客が今後も顧客になっていく可能性は大です。
 
 さて、この調査結果をわが身に置き換えて数ヶ月間の行動を思い出してみると、自宅にいる時間が長くなったので従来はササッと目的の物だけを買いに行くドラッグストアで時間をかけてプチプラコスメ売場を探訪して買物を楽しんだり、運動不足解消のためちょっと遠いスーパーまで散歩がてら出掛けて食品の買い出しをしたり、100均ショップを堪能したり、ご近所のパン屋にちょくちょく出掛けたり。。。不要不急を守りながらも近場の買い場を知るチャンスとなり、灯台下暗しで自宅近隣にはいろいろな店と商品と売り方があることに気付くチャンスになりました。
 
 

●鮮度や美味しそうの伝え方は消費者目線から
 あらためてコロナ禍に時間をかけて買物をした複数の食品スーパーで痛感したことがあります。それは“日常使いの食品スーパーだからこそ分かりやすさと食の楽しさを”というテーマについてです。
 
 大手食品スーパーのA店は店舗が広く品ぞろえは充実していますが、私の身長より高い棚で統一されているため見通しがきかずどこで何を売っているかが分かりにくいのです。お酢を探すにも棚から棚へ歩き回り、ようやく売場に辿り着きます。しかし、お酢コーナーには豊富すぎるほど沢山のお酢だらけ。それも1銘柄で極小・小・中・大・特大のボトルが並んでいて豊富すぎる印象です。棚ジャングルで迷子になる感覚はちょっとした圧を感じます。私と同じように迷子のシニア夫婦「どこにあるかさっぱりわからないね~。」と言いながら棚ジャングルを歩いていました。
 
 最近は人員削減でフロアに店員がいないため「○○はどこにありますか?」と聞く事もできず、自力で探すしかありません。自分がシニアになったらますます商品探しに苦労するだろうなあ、と考えるとゾッとする気分になります。
 
 鉄道系の大手スーパーB店は手慣れた店づくりで全国統一されていて、どの店へ行っても似たつくりになっているので使い慣れたお客様はB店への安心感を持つのだろうと感じます。大手スーパーだけに、店員さんの教育がキッチリとされていて、レジ対応がスムーズなのは、さすが鉄道系といったところでしょうか。
 
 しかし、整理整頓されすぎて色気のない店づくりは“美味しそう感や楽しさ”という食のニュアンスを感じさせません。惣菜も豊富にあるのですがスキッと並べられ過ぎているので手作りの温かさがない雰囲気なのが残念です。
 
 2年前に開業したC店は、中規模店舗なのでササッとひと回りしやすく便利な店舗です。食品だけではなく下着類やTシャツや靴下などのちょっとした生活雑貨も扱っているので助かっているとご近所の主婦評価を耳にします。
 
 中堅スーパーのD店は、規模は大きくなく食品オンリーの品ぞろえなのですが、食品の鮮度や美味しそう感を棚づくりから商品の並べ方でとても上手にアピールしているのでついつい「ワインでも買っていこうかな」「このチーズ美味しそう」という気になるお店です。そして何より好感度が高いのは棚が適度の高さで青果売場などは平台展開なので一目で見渡せ、どの野菜や果物があるのかが分かりやすいこと。惣菜が温かそうにランダムに並べられていることなど、とても魅力的で食品売場として好感が持てます。

 
 
 業界では食品は購入頻度が高い商品だけに専門的な売り方や見せ方のテクニックが必要といわれており、各社の売場担当者に会うとこの道数十年のベテラン男性が登場します。こういう方々と売場について意見交換すると「昔からこのやり方が当社のセオリーだ。」とか「仕入れ業者との関係から、棚をつくらざるを得ない事情もある。」などの発言がありびっくりする時があります。なんだか内側目線の話で、お客様を見ていないNG感覚です。
 
 日常的に食品を買いに来る主婦や主夫の目線で売場を見れば鮮度や美味しそう感を演出でき、何がどこにそろっているのかの分かりやすさをつくり出すには意外とシンプルなお客目線の発想だと思います。誰でも安心して快適・便利に日々の買物を楽しみたいものです。
 
 

(記:島村 美由紀/販売士 第40号(令和3年3月10日発行)女性視点の店づくり㉕掲載掲載)