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2024.06.26

日経MJ

小径たどる緑豊かな丘-JIYUGAOKA de aone-

  

 東京・自由が丘で住民に長年愛された食品スーパー「ピーコックストア」が2021年、52年間の幕を閉じた。その地に23年10月、イオンモールはショッピングセンター(SC)「JIYUGAOKA de aone(自由が丘デュ アオーネ)」を開業。感度の高い居住者層をターゲットに、イオンモールの新業態となる都市型SCへの挑戦が始まっている。

 
 

地域の文化と共生、都市型SC

 「JIYUGAOKA de aone」は延べ床面積9,500㎡で地下2階、地上4階建て。アパレルや雑貨、レストランなど26の店舗が入る。ピーコックストアも新たにテナントとして入居している。

 

 1980年代以降、今も平日から女性客で賑わう自由が丘の魅力の元は、街に住む人たちがつくってきたライフスタイルにある。小説家や芸術家といった文化人が住み、私立学校が建てられ、その住民をお客とした衣料品や雑貨、菓子店ができ、商業と住宅地が一帯となって自由が丘のライフスタイルを形成した。それが知性やセンスを感じる“自由が丘らしさ”として今も憧れられているのだ。

 

 その自由が丘は実は道路整備が遅れ、歩道のない狭い道が多く歩きにくい街だ。だが細い道路沿いにおしゃれな店やカフェが点在しモダンな住宅が続き、「まるでご近所めぐりのような街歩きが楽しめるのが魅力」とイオンモール開発企画統括部建設計画部の黒江倫子担当部長は話す。

 

 デュ アオーネの環境づくりは街の文脈からこのカギを読み解いた。「小径のGreen Hill(緑の丘)」をコンセプトに街歩きで辿り着く場所を創造した。街路から大階段で自然にカフェなどがある2階、緑豊かな3階の1,000㎡のテラスへと人を導く。3階、4階の展望デッキへとなだらかな丘を登るように施設の小径は繋がっている。

  

 黒江氏は「建物が街から緑の丘に見えるような風景をつくり、地域の景観の向上に貢献するよう努力した」と話す。

 

 「武蔵野の在来種で館の緑地化を図った」とも黒江氏が話すように、多摩産のヒノキ材をテラスやデッキに使用するほか、雨水を溜めて植栽の灌水として利用。さらに生物多様性保全の観点から鳥が羽を休める人工的な水たまり「バードバス」や巣箱を植栽の中にいくつも設置するなど街の環境への細やかな気遣いをしている。

 

 館は路面店のように店が並ぶアウトモール構造で、街路から直にテラスや展望デッキへ出入りできる自由さは公園のようだ。

 

 テラスには長時間雲を眺める男性がいたり、手作り弁当をひろげる女性や音楽を聴く女子高生がのんびりしていたりしている。自由な時を楽しみデュ アオーネが目指す“自然と自然に落ち着ける場所”を得た街の人たちだ。

 

 このテラスにはもうひとつの重要な役割がある。「de aone TERRACE CLUB(デュア オーネ テラスクラブ)」の活動ステージである。イオンモール営業サポートグループの長谷川宏之マネージャーは継続的に文化体験型交流イベントを展開する予定だ。時間をかけて地域文化を醸成し、コミュニティを生む仕掛けを計画している。開業7カ月ですでに10イベントを実施した」という。

 

 昨年10月に開催した「フィンランドデー」では大使館の協力のもと、世界幸福度ランキング1位の国ならではのトークイベントや雑貨・食品の販売を、「ポートランドデー」では米国・ポートランドのライフスタイルを表現するDIYワークショップやポップアップストアを展開した。3月に開催した「自由が丘ボタニカルマーケット」は外部のテナントを招聘して花と植物のマルシェを開いた。

 

 このデュ アオーネ テラスクラブの活動は従来イオンモールが運営する郊外モールのイベントとは異なり、街の人が自由が丘らしい「コト交流」として受け止め、回数を重ねる中で自由が丘らしい文化スタイルに醸成させていく。それがデュ アオーネのブランディングになると黒江氏と長谷川氏は考えている。

 

 イオンモール初となる都市型SCは派手な施設づくりではなく、いかに時間をかけて街の景色に馴染み、商業の流れのひとコマになり、住民の日常に溶け込んでいくかをテーマにして開業した。

 

 オープン間もないが、人々がテラスでくつろぐ様子や鳥たちがバードバスで水浴びする姿を見ると好スタートを切ったことを確信する。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2024年(令和6年)6月26日(水)掲載)