日経MJ
富士山麓 客呼ぶ大屋根 -山梨に旅の駅「kawaguchiko base」-
各地で盛況の「道の駅」のように、商業地として幹線道路沿いの潜在力が注目を集めている。最近では民間による質の高い施設も増えている。山梨県富士河口湖町にある「旅の駅kawaguchiko base」はその代表格だ。富士山麓で生産される良品をそろえる拠点として2022年6月に開業し、すでに観光客や地元住民の人気の場となっている。
果物・肉料理・ワインに誘われて
中央自動車道河口湖ICから国道137号線を走ると、ひときわ目立つ黒い建物が目に入ってくる。約13,000㎡を超える広大な敷地内にある「旅の駅kawaguchiko base」(1,950㎡)のメインとなる、大屋根で覆われた和モダンの低層施設だ。
建物の外観は黒を基調とし、エントランス部分にアクセントとなる木材を使ったデザイン。内装も黒枠に木製パネルでデザインされたオリジナル什器を配置し、内外のデザインの統一感を出している。店内は天井を高くし、細い列柱と複数のペンダントライトを使って解放感を生み出している。パネルやバナーで富士の自然を演出している。ロゴやサインのデザインには著名デザイナーも参画。施設全体のブランディングにつなげ、洗練された雰囲気をもたらしている。来店客からは「ここは(一般的な道の駅と)何か違うね」と会話が聞こえるほど、センスある新世代型施設になっている。
施設はマーケットプレイス、飲食スペース、イベントスペースの3ゾーンにわかれている。「あさま市場」と名づけたマーケットプレイスは、地場産の食品や雑貨など約2,000種類をそろえる。山梨はフルーツ王国として名高い。あさま市場でも桃や葡萄のシーズンは良品が店頭に並び、地元客にも支持されている。
「MEGU」というプライベートブランド(PB)も好評だ。地域で見いだした商品に現代的なパッケージを施しており、カステラやプリン、ドレッシング、せんべいなど約30種を展開している。売り場では製造者も紹介し、お互いに伸びていこう新コンセプトを打ち出している。
飲食スペース「テラスキッチン」は、約150席の大型レストラン。甲州牛や富士桜ポーク、信玄鶏などブランド畜産品を使った創作料理が目玉だ。30あるテラス席からは、河口湖の景色が楽しめる。
事業者の大伴リゾート(山梨県富士河口湖町)は、繊維業を起源とし現在は河口湖畔でホテルや貸別荘を経営している。交通量が多い国道沿いに商業地としての可能性を見いだし、この旅の駅の開発に着手した。
「旅の駅のコンセプトは「“めぐり めぶく しあわせ”。地域のよいものを見つけ出し、成長させ、この地域で芽吹かせる。生産者も店も客も幸せとなれるようにとの思いを込めた」と代表の伴一訓氏は語る。
河口湖は富士山観光の人気スポットだが、日帰り客が7割を占め、滞在時間も短いという観光地としての課題もあった。宿泊施設の過半が素泊まり型で、グルメやアクティビティ施設も少なかった。この旅の駅は時間消費型の新しい河口湖観光のあり方を模索する中で生まれたともいえる。
伴代表がこれから力を入れようとしているのがワイン事業だ。あさま市場の一角には約80種の山梨ワインをそろえる。その内の約15種を低価格で試飲できるコーナーも併設し、ワイン好きを喜ばせている。
22年8月には敷地内にワイナリー「7c|seven cedars winery」(約530㎡)を開設した。日本のワイン造り手100人に選出された女性醸造家、鷹野ひろ子氏と葡萄栽培を手がける12名がチームとなり、オリジナルワインを開発している。
22年12月には第1弾のスパークリングワインが発売。小ロット生産で、葡萄栽培者にスポットライトをあてるというコンセプトからラベルに本人の名前を刻んでいるのが特徴だ。今後もワインの種類を増やしていく。また年内には直売店やワインを楽しむくつろぎの宿泊施設の開業も予定している。
地域を土台として成長するこの旅の駅のドラマはまだ始まったばかりだ。
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2023年(令和5年)2月15日(水)掲載)