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2020.10.15

繊研新聞

密と個に重点をおく 商業環境の在り方とは -コロナ期だからこそ 再構築のチャンス到来-

 
 
 新型コロナウィルスの感染が国内で拡大してはや9ヶ月が経過し、感染が日常となる生活が常態化している。従来の暮らし方や働き方、人との交流等が急激な速度で仕切り直しとなり、便利さ、快適性、幸福感等の生活感覚に変化が生じている。

 

 SCは時流、世相、流行など消費者感覚に呼応するものだから、社会を揺るがすコロナ禍でそのあり方も変化を余儀なくされる。
 
 

 

コロナ前より飽き

 外出自粛にともなう休業や時短営業により、SCの売り上げは大幅に減少し客足は今も回復していない。

 

 SCは数年前から、その勢いに陰りが出始めていた。大きな原因は言うまでもなく人口減少や消費者のファッション離れで、従来のSCの主力構成カテゴリーであるアパレルの売り上げ減少傾向は3~4年前から始まっていた。また、リアルショップからECへの購入ステージ移行が高まり、2019年度では物販系分野のEC化率は6.76%(10兆515億円)の市場規模になっている。全国SC総売上高は2018年32兆6,595億円から2019年31兆9,694億円と2.1%の減少に転じた。

 

 ここまでの話は周知の通りだが、SC低迷はSC成熟期であるこの15年間に、効率重視の施設開発・運営による消費者の“心離れ”が起こっていたのではないだろうか。

 

 1980年代より総売上高・館数を伸ばし続けてきたSCは、テナントとの定期借家契約の普及から立地や商圏に優位性を持つ館が中心となり、売り上げ至上主義的な効率重視の開発と運営姿勢に変わっていった。新規SCに人々の注目が集まるため、賃料が高水準のテナント選択と売り上げ重視の館運営が当たり前となり、挑戦や冒険という未知なる世界や無駄や不揃いという情緒性が排除された。

 

 さらに、SC大型化が2000年代に顕著となり、出店可能なテナントの画一化が始まった。また、建築や空間デザインにおいてもコスパ重視となり全国的に特徴のない建築物や、店舗が均一的に並ぶモール空間が一般的となり、ストレスフリーで快適な環境ではあるものの“ここでしか体験できない館の個性”は薄らいでいった。優等生的SCは全国に増えたが、アイデンティティ(固有性)を持つ館はなくなってしまった。

 

 消費者は敏感にこの「SC均一化」を感じ、SCに嫌気がさし、知覚や感覚を反応させられる別の刺激ある場に目を向けていったのではないだろうか。

 

 

ウィズコロナ時代

 商業における建築や環境は店舗や商品を飾る額縁だ。額縁のデザインや材質がクオリティーを保っていれば、入店するテナントのトーン&マナーも揃うことができ館全体の一貫性ある世界観を伝えることができる。額縁である館の建築や環境が美しいとテナントの格も数段上質に映るものだ。

 

 ウィズコロナ・アフターコロナの今は、改めて商業の建築や環境というハードウェアの研究が必要な時だろう。なぜなら、人々の生活様式が変わり在宅勤務が一般化したことで、おうち時間、ご近所時間が増大し、人々がSCに足を向けてもらえるチャンスが到来したからだ。

 

 これからの商業環境への視点を3点挙げていこう。

 

 ①は「コミュニティー創出空間」の在り方だ。今までも郊外型SCはイベントなどの場として広場的な空間を積極的に導入してきた。新興住宅地をかかえる商圏では、SCが地域のコミュニティーの核となり、広場が人と人との縁をつなぐ場であったり、公園にもなってきた。この活用スタイルは今後も進んでいくだろう。

 

 ②は「逍遥自在空間」の在り方だ。これからのSCに重要な考え方は“空間の自由度”であろう。施設の大型化が加速した2000年代は“複数人の気分高揚の場”を前提にSCが計画されたが、これからのSCは少子高齢化とEC時代の到来で床が不要なるSC小型化傾向となることから“個の気分沈静の場”としての新ステージが求められるはずだ。単身や少人数で世間から離れ、自由気ままに精神を遊ばせ穏やかに過ごす場の意味である。例えば、禅寺の庭園やホテルの庭園のように静なる環境がSCでも大人化時代の鍵となるだろう。

 

 ③は「オープンエア空間」の在り方だ。日本人も欧米のように春夏秋冬で外環境を上手に楽しめるようになってきた。コロナ時代には常に外気と触れることが重要なので、レストランやカフェのテラス設置や物販店における外部活用(外部での商品展示や借景としての景観活用等)やポーチ設置等、活用の多様な外環境との関りがもてる。従来のSCは建築という巨大な箱の中に全てを閉じ込めその内部にインテリアとしての環境をつくってきたが、コロナ時代は可能な限り外に向かって開かれた建築を計画し路面店的店舗配置や人や商品の外環境との関り重視が求められる。

 

 

アイデンティティー

 元来、庭園には集会・交流・留置という動的在り方と鑑賞・道々・思索という静的在り方の2つの方向性があるという。2000年以降、SC成熟期にはバリアフリーの整然とした商業環境がつくられてきた。密を避けた個の空間・個の時間がライフスタイルとして優先される今だからこそ、館アイデンティティーをメッセージできる商業建築や環境の価値を再構築する時がきた。

 

 

(記:島村 美由紀/繊研新聞 Study Room 2020年(令和2年)10月13日(火)掲載)