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2022.02.16

日経MJ

宿場町のもてなし現代に -「ミナカ小田原」、にぎわい創出-

  

 東海道随一の宿場町として栄えた伊豆・箱根エリアの玄関口になっているが、人口は減少傾向となり中心市街地の活力不足に悩んでいた。2020年12月、小田原駅東口に複合施設「ミナカ小田原」がオープンした。小田原城を尊重し、町の歴史に敬意を表したその建築が注目を集める施設になっている。

 
 

「タテ」と「ヨコ」で地域つなぐ

 16年に小田原市は駅に隣接した土地の広域交流拠点整備として事業者を募集し、市に本社を置く万葉倶楽部が選定された。ミナカは観光客と地元住民が共に利用できる広域交流の拠点性を重視して「たてのつながり」で館内の回遊性を、「よこのつながり」で地域連携を計画した。

 

 最上階14階に展望足湯庭園を設置し、誰もが自由に出入りし眺望と足湯を楽しめる。下層階ではホテル、クリニック、図書館、子育て支援センター、コンベンションホールなどが重層型で連なり、多くの市民や観光客の高層階への行き来が生まれている。

 

 駅東口ペデストリアンデッキから駅ビルの接続デッキを通り、ミナカの2階「金次郎広場」を経て連絡ブリッジで市民交流センター、そして小田原城方面へ歩行者が雨にぬれずに移動できる歩行空間をつくった。この3施設で約600台の駐車場と観光バス待機場が確保されており、この場から城や街中めぐりがスタートする回遊性を生み出している。

  

 ミナカは「宿場町のこころをいまに再現する」をコンセプトに計画された。「旅人が町の人に歓待され言葉を交わし宿や飯屋で癒やされる、そんな宿場町の心理的感応や気持ちのやり取りを表現した」と万葉倶楽部一級建築士事務所・木下克彦所長はいう。

 

 商業施設である低層棟は城との調和を重視して木造建築とし、お城通りに面する中心には三層吹き抜けの提灯(ちょうちん)棟を設け小田原文化である「小田原提灯」で演出している。

 

 また提灯棟を軸にシンメトリーな四層和風デザインは切り妻屋根を載せた灯籠のような丸窓を配した小部屋がアクセントに使われている。スタジオジブリのアニメ映画「千と千尋の神隠し」で描かれた湯屋のような独創性に富んだ木造和風建築が小田原らしい表情を印象付けている。

 

 14階建てのタワー棟は無機質なガラス外装で一見すると低層の本格木造建築と、ちぐはぐな印象をあたえる。しかし晴れた日はタワー棟のガラスウォールに空や雲を映し、二双蔵と呼ぶ店舗上部の藏(くら)を模した瓦屋根の連なりの背景に大空が映し出され大スクリーンとなる。

 

 さらに視点を変えると、小田原城が映し出され、まるで金次郎広場が城に抱かれているかの様な風景が展開されるという驚きの仕掛けが隠されている。施設をじっくり体験するほどに、木製の案内サインや八つ車や囲い椿(つばき)というオリジナル和モチーフがほどこされ、随所にデザインの妙を感じる。

 

 ミナカの開業は20年12月だが、同年1月末より新型コロナウイルス感染拡大がはじまり、出店予定だった全国チェーンのテナントがいくつもキャンセルとなる苦境を味わった。1階~3階の約40区画が飲食店や地域物産を扱う店舗で構成される商業施設は、地域の結びつきから多くの地元テナントが入居することで難局を乗り切った。

 

 なじみのテナントは地元住民や近隣の日帰り観光客を呼び、平日休日問わず日常利用施設としてのポジションを築いている。地元の若い女性に聞くと、「駅前にはお茶をするにも何もない小田原だったが、ミナカができてランチやスイーツショッピングなど楽しみが増えた」と言う。

 

 平日11時過ぎからフードコートには若者やカップルらの姿があり、昼はかなりのにぎわいがある。1階のレストランや物販店にも日帰り観光客の姿がある。「開業時はどうなることかと思ったが日増しに地元客の来館が増え、今では一日を通して老若男女が足を運んでくれるにぎわい拠点となっている。」と高橋眞己専務は語る。

 

 人気は14階の足湯だ。箱根湯本にあるグループ企業のホテルから運ぶ温泉を提供している。約60メートルの高さから相模湾と小田原城とを一望できる絶景を味わえる足湯を無料で開放しているのは、地元に根付く企業の配慮であり、全国で10ケ所の温浴施設を展開する強みを生かしている。

 

 街からご近所さんと思われる人々がタワー棟に入っていく。「小田原市立小田原駅東口図書館」や「おだぴよ子育て支援センター」を使う親子、クリニックなどに来る市民らで、用事を済ませた後の商業施設の飲食利用も多くあり、自然な「たてのつながり」が生まれているようだ。

 

 今後は「観光客も増え観光バス待機場がフル稼働する時の運営も含め、『よこのつながり』のにぎわい拠点として在り方をしっかり計画していきたい」と高橋専務は語る。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2022年(令和4年)2月16日(水)掲載)