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2021.12.01

不動産フォーラム21

実のある安価で勝負する勇者-ワークマンの快進撃-

  

 緊急事態宣言が解除になり人流が増える中、アパレル業界の不調は続いていますが、メディアで話題となり快進撃を続けているのが「ワークマン」です。

 
 

●誰も狙わなかった領域を開拓した“つわもの” 
 最近でこそ有名になってきたワークマンですが、もともとは建築現場で働く職人のための作業服専門店として1982年にスタートを切りました。今ではユニクロ国内店舗数(810店)を超える926店を日本中で展開する大手小売店に成長。売上は19年3月期116.7%、20年3月期131.2%、21年3月期120.2%とコロナで世の中が混乱する時でも業績を伸ばし続けている注目の店舗です。

 

 ワークマンは何がすごいのでしょう?それは何と言っても“機能性×低価格”という誰も狙わなかった領域を開拓し続けたことが唯一無二の強みになったことです。
 

 スポーツウェアやアウトドアウェアを購入するとき高い機能性を望めば望むほど高額な商品になりがちです。安価な物に妥協すると、ポケット数が足りなかったり雨が浸みこんできたりと後悔する羽目に。ハイプライス商品を買っても重くて使い方が複雑だったりと投資効果が得られずがっかりする体験はよくあることです。“高価格×機能性”領域は国内外のスポーツブランドや国内外のアウトドアブランドが数多く存在して激戦区になっている従来の領域です。それに対しワークマンが開拓する“機能性×低価格”の領域は、ほぼワークマン単独と言っても過言ではない空白ゾーンです。長年の開発で防汚・防雨・保温に優れたプロユースの技術力と安価さが群を抜いています。

 
 

●「声のするほうに進化する」という名言
 ある記事でワークマン幹部が先手必勝ではなく「声のするほうに進化する」という名言を発していました。長年育ててきた専門領域と10年前から開発するプライベートブランド(約1,400品目)を軸に2018年「ワークマンプラス」という一般客向け新業態をデビューさせました。防寒着や防水・撥水ウェアが機能性高くロープライスなので人気の店舗です。私もこの店でレインジャケット(2,900円)を買って雨の日に愛用しています。

 

 また次の声のする方は女性だったのでしょうか、2020年には「ワークマン女子」という新業態をつくり、この店が女性の注目を集めてSNSで拡散し評判になったことが多くのメディアで取り上げられました。

 

 写真は「ワークマン女子」の店内です。「ワークマンプラス」の雑然さとは違い、ワークマン女子は商品の見せ方やコーディネイト提案などが行われおしゃれな店づくりになっています。ワークマンプラスでは姿見(鏡)をを探すのも一苦労なのですが、ワークマン女子はかわいく装飾されたミラーが置かれています。またワークマン女子は意外にも女性用2割で男女兼用6割、男性用2割と一部キッズ商品も扱われており女性だけの店舗ではないことも来店して気づきました。ワークマン女子はすでに9店舗がオープンしています。

 

 ワークマン系店舗に行くとスタッフの少なさに驚かされます。最小限人員で店舗運営を行い人件費比率は売上に対して3%程度なのだそうです。そのためなのかPOPが店内で充実して商品特性を伝える有効な役割を果たしています。「一枚でオシャレ 水に強いシェフパンツ ¥1,500」「デニムなのに防水するオールマイティな一本 ¥3,900」。最も面白かったのは「着るコタツ アウトドアやワークシーンに ¥3,900」こんなPOPがアイテムごとに提示され、サイズ明記の商品がそろえられているので店内がわかりやすく見やすさバツグンです。あるお客が「試着してもいいですか?」とスタッフに聞くと「ご自由にどーぞ」のひと言。かなりのローコストオペレーションぶりに驚きました。

 

 従来はプロ向け専門店が、商品の強みを拡大させ一般向けに進化した興味深い事例として一度店舗をのぞいてみてはいかがでしょう。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2021年12月号掲載)