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2022.12.12

販売士

女性目線で客層を捉えよう!

  

 少子高齢化、人口減少、所有欲薄いZ世代などモノやサービスを提供する場にいる私たちにとって難題ばかりが頭をよぎります。そして常にテーマになるのが“ターゲット戦略”であり「誰に対し、どんな時に、どのようなやり方で、何を売るか」が検討され議論され店や売場で試行錯誤されています。

 

 ターゲット戦略はこだわりや好みが購入決定の要素となるタイプの商品やサービスにおいて特に重要なテーマで、代表例はファッションやアクセサリーなどの流行品、車やゲーム、住宅なども“誰に?”が重要になることは周知の通りです。この“誰に?”をどのように捉え考察し売場に反映するか。難題ではありますが日常の女性的な目線や勘を働かせ客層を捉えることができるのではないでしょうか。

 
 

●目の前にいるお客に気付く
 私の体験談をご紹介いたします。今から20年前に地方都市の駅ビル開発に携わった時の事、地下コンコースに接する地下1階のMD構成を検討しました。通勤・通学・買物客など多勢の往来がある場なので、複数専門店で編成する女性に便利な化粧品ゾーンを考え、テナント誘致に奔走しました。

 

 大手外資化粧品メーカーの部長さんにプレゼンすると「それは無理な話。隣にX百貨店がある。どこの化粧品ブランドもX百貨店とは日本各地で取引がある。誰もX百貨店を裏切れない。それ以上に女性にとって化粧品は百貨店で買うものだと決まっているから駅ビルで化粧品は売れない」と大笑いされました。当時、百貨店1階売場の化粧品の独壇場だったので、この部長さんの発言はごもっともだったのですが、百貨店に行くのがめんどうな女性層、嫌いな女性層、もっとカジュアルに化粧品を試し買いしたい女性層が潜在的にいる事を、自分自身や周囲の女性を観察してそのニーズを察知していた私は、百貨店ではない新しいコスメゾーンの成立を直感していました。

 

 結局、駅ビル開業時は4店舗の化粧品専門店ゾーン(いずれも百貨店には出店しにくいマイナーブランド)からスタートしましたが、今では16店舗で平均約90万円/月坪効率をほこる優秀ゾーンに成長しています。そして多くのブランドが百貨店には出店しない自分の世界観を表現できる売場を好むブランドであり、その世界観やカジュアルな売場を好む女性層がコロナ禍でも集まっています。

 

 近年では開放的空間が功を奏し男性客も増加傾向にあります。自身のショッピング感覚や家族や友人・知人の消費行動を観察したり、街の中で人々の動きを見ていると「誰に、何を、どのように」という答えが発見でき、目の前に新しいお客がいることに気付くことが多くあるものです。

 
 

●オールターゲットの思い込みはNG!
 最近の視察で感動した店のひとつに埼玉県の食品スーパーがあります。感動的だったのはその食品スーパーのターゲットの捉え方です。

 

 前述したように“ターゲット戦略”といえばこだわりの強いファッションや車などの分野が主力で、老若男女に対して日常的売場となる食品スーパーは誰にとっても生活の基となる食料品が満遍なくそろう場だと認識していました。しかし、この食品スーパーはターゲットを“若年ファミリー”に絞った商品展開をしています。入り口にはピザ工房がドカンと構え料理人が忙しく働いています。入店すると目の前には生菓子と果物と工房で焼かれたピザが客を出迎えます。生菓子(ロールケーキやチーズタルトやモンブラン)やピザを買うつもりはなかったのですが、そのおいしそう感につい気がゆるんで購入。次に進むとパッケージがおしゃれなポーク丼やポテトサラダ、唐揚げ、自家製玉子焼きなど目移りするほどの品ぞろえとリーズナブルプライスです。

 

 圧巻なのは地域最大級の冷凍食品売場で各種アイスクリームから肉や魚の加工品、地方銘菓やパンなどがそろっていて、働く女性や子育てママの時短を支える商品構成が計画されていました。また女性的な目線の小さなポイントにも気配りがされ、その店で名物のおはぎがシンプルおはぎに対しホイップクリームにミントの葉を乗せたおしゃれおはぎにアレンジして売られていたり、単純なカットフルーツではなく各種カットフルーツが円形容器に盛り込まれそのままデコレーションケーキのようにテーブルに置けるようなパッケージ工夫がされていたりと食品をより楽しくきれいに売る知恵を商品の随所に感じることができる売場づくりです。

 

 新興住宅地や新築マンションの増加で地域住民は若いファミリー層が急増しているとかで、従来ありがちだった食品売場でオールターゲットではなく若ファミリーに的を絞り込んだターゲット戦略をMD構成で実施し、さらにパッケージ工夫やデコレーション工夫などの細やかな演出も加えて落とし込んでいる点が多くの人々の心にささる成功事例となったのでしょう。とてもエキサイティングな店で私もつい衝動買いをしてしまいました。

 
 

 人々のライフスタイルは日々変化しますが、自分も女性の消費者であり買物好きな女性のひとりという立ち位置で客層を捉えていくと意外とあらたな発見や発想が生まれてくるものではないでしょうか。

 
 

(記:島村 美由紀/販売士 第47号(令和4年12月10日発行)女性視点の店づくり㉜掲載掲載)