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2017.09.19

販売士

女性を束ねる「つもりがたり」

 

 今回は視点を変えて“人づくり”についてお話をします。
 先日、知人の女性店長に会うと「自分はリーダーシップ能力に欠けている」という悩みを打ち明けられました。私はメンタルトレーナーではないのでリーダーシップのあり方を教えられる知識や技術は持ってはいませんが、約30年間会社を経営し女性スタッフばかりのわが社を運営してきた経験から、自分なりに“リーダーシップとは何ぞや”“女性の束ね方”を彼女の問い掛けをきっかけに考えてみました。

 

リーダーシップの基本は「つもりがたり」

 「なんで能力がないと思うの?」という私の問いに彼女は「店のスタッフからできない、やれないという否定の言葉を言われる。AさんやBさんやCさんのようなリーダーをみていると自分とは格段の差を感じ、人種が違うと思うほどがっかりしちゃう。」との話がありました。
 彼女の挙げたA・B・Cさんは共通の知人で何百億円、何千億円ものプロジェクトを誘導する大手企業のトップビジネスマンたち。私も常日頃憧れ、魅力を感じる男性陣です。「それはちょっと大物と自分を比べすぎちゃっていない?」と彼女に言いました。どうやら彼女はリーダーシップなるものが、限られた人の特殊な能力でその力を使えばグイグイとスタッフが彼女に従い付いてくるような魔法の力だと思っているようです。
 それは大きな間違いだと思いましたが、たしかにその男性陣にはある強いパワーを感じます。「何だろう?」と考えてみるとその人たちは誰よりもよく喋る語り部だという事に気付きました。
 そうなのです!A・B・Cさんたち、そして私も同様ですが“自分のつもり”を他者によく話しています。「あの仕事はこうするつもり」「今月はこうやりたい」「来年はあんなことをやろう」「今日はこうしたい」「あの会社とはこう付き合おう」「○○さんは○○な人だから○○に対応しよう」「昨日はこうするつもりがあんなことになった」などと、ちょっと先の事から今日の気持ちから過去のつもりだった事まで本当によく他者に話をしています。私がその男性陣に魅力を感じるのも彼らのさまざまな“つもりがたり”が面白いからなのだと気付きましたし、私も30年間自分のつもりを社内で語ってきました。
 その“つもりがたり”を聞いた周囲の人たちが「なるほど、面白いね」「そう思っているなら自分もその方向を向こう」というように同調し、その人のかじ取りをしていく事になる。それがリーダーシップの基本ではないかと思います。

 

「つもり」が見えないつらさ

 “つもりがたり”に気付いたと同時に数ヶ月前に相談されたYリーダー(女性)の悩みにも回答が見えました。
 地方支店から本社勤務になり数ヶ月、上司(女性)との関係がうまくいかない。部署の会議も活性化せず静かな時間になってしまう。上司に何を言っても「いいんじゃないの」「違うかなー」の回答ばかり。女同士だからうまくいくかと着任時は思っていたけど手ごたえなし、というのがYリーダーの悩みでした。女性上司はその会社でトップで役職者になった人。Yさんも支店で実績をあげて本社勤務になったので早く順調な流れをつくりたいと思い、焦りと辛さが顔に出ていました。しかし、その時に私はYさんに的を得たアドバイスが出来ずじまいでした。
 実は問題は女性上司の“つもりがたり”がないために周囲が方向を見失い、Yさんが自分のかじ取りができない事にあったと気付いたのです。
 上に立つ人の“つもり”が見えないと部下も関係者も悩み迷います。まさか下の者から「どーするつもりなんですか?つもりを聞かせて下さい!」と上司に言うわけにもいきませんから。私はさっそくYリーダーに連絡を取り、対策を話し合いました。

 

「つもりがたり」は職場を超えて

 “つもり”を語りましょうのつもりに難しい話は不要。「私はこうしたい」「私はこう思う」をこまめにおしゃべりする事で、スタッフは「そーなんだ、そんな事を考えているんだ」とリーダーである店長を理解し、協力してくれるはず。“つもりがたり”は仕事の話に限らず、色々な範囲もOK。例えば好きな食べ物、出掛けた旅行先の出来事。友人のこと。流行のファッションの話など、幅広い店長の“つもりがたり”から店長の価値観や志向を感じてもらう事も大切だと冒頭の店長に話しました。
 わが社では心掛けてスタッフをゴルフや温泉に誘います。時には会社でたこ焼きや焼肉パーティーを開きます。私が運転手役や買い出し役になります。そしてその時に昔々の恋バナや会社設立のエピソードやお金のなかった時代の苦労話をほろ酔い気分で喋り、スタッフの面白い体験談やこれからのつもりを聞かせてもらいます。これも“つもりがたり”の一環です。「ヘエーこの人はこんな人なんだー」とお互いが職場を離れて良いところや優しいところなどナイスな人柄を理解し合える。これも女性たちのコミュニケ―ション能力の高さゆえに同じステージに立てますし、女性は真面目ですから体験共有、時間共有から生まれた気持ちは長く大切な信頼関係をつくりだします。
 リーダーシップの基本の基本は“つもりをかたる”こと。男性も女性も大切な事だと思います。

 

 

(記:島村 美由紀/販売士 第26号(平成29年9月10日発行)女性視点の店づくり⑪掲載)