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2019.12.10

販売士

女性はシビアに評価 飲食店のコスパ感

 

●人気店なのになぜ閉店?
 私のよく行く街のレストラン街に洒落たバールが数年前にオープンしました。他の店はレストラン街にありがちな大手チェーン店のとんかつ屋やうどん屋なのですが、ここは地元の歓楽街で数店舗を出す若手経営者のバールなのでどことなく異彩を放っています。
  
 例えば装飾もアパレルショップのようにお洒落でランプシェードに麻布を掛け、紫陽花のドライフラワーを天上から吊るし、キャンドルを何十本も飾るというセンスの良さが光ります。メニューも魅力的でいち早く地域のクラフトビールを導入したり日本産のワインをそろえたり、食材も○○村○○さんというようにこだわりが伝わります。「今日はこれを頼んだけど、次はこっちにしてみよう」とか「あなたのワイン、ちょっと味見させてね」などと友人との会話も弾みます。こんな様子なので昼も夜もお客の姿があり店は流行っている印象でした。
  
 ところがこの店が閉店してしまったのです。オーナーは「お客の入れ替わりが激しくて、食材の原価も高く利益が取りにくかった」との話でした。思い当たる節があります。どの料理も量が少ないのです。ランチは1000円強、夜の惣菜料理は600円~1200円、ワインも1杯600円程度で都心であれば一般的価格ですが少量しか盛られていないので一皿での満足度が低く何皿も頼むようになり割高な会計になる。「お洒落で女性には居心地の良いバールだけど量が少ないし。。。」「あんなに食材にこだわらなくてもいいから量を多くして。。。」などの声が上がり「また行こう」の気にならないのです。
 
 今の時代、健康意識の高まりで「しっかり食べたい」と思っている女性が過半です。お洒落でも量が少ない店には足が向きません。
 
 

●16年間も女性の行列が続く店
 同じレストラン街に16年間ランチタイムで女性の行列が毎日できる店があります。そこは大型の和食屋で15分待ちは覚悟の昼どきです。
 
 行列が嫌いな私はこの店を避けていましたが毎回見かける行列が気になり行くことにしました。行列の謎は簡単に解けました。「味はそこそこ。ヘルシーでボリュームがあり値段がリーズナブル」が女性客の心を長年掴んできたのです!
 
 定食は880円~1200円の幅ですが、どれもご飯(蒸し寿司や炊き込みご飯もあり)、豚汁がたっぷりな量で提供され、蒸し野菜・お豆腐・豚肉をポン酢でいただくお料理が中心です。一番安い880円定食でもお腹には十分。なにより野菜がたっぷりついてくるので女性が常日頃外食の都度頭をよぎる「太るかな」という不安はありません。
 
 ヘルシーで満足できる量の食事には「またあの店へ行こう」という気にさせるコスパの良さが備わっているのです。
 
 

●知らぬ間にオーナーチェンジ、適性なくして客なくす
 こんな話もあります。
 
 都心で複数店ある名の通ったパスタの老舗を時たま利用していました。野菜が新鮮でパスタの定番メニューもあり手作りタルトが美味しく、何より働いている料理人やバイトの女性たちが元気で愛想良しでした。が、今年になり何となくタルトが貧弱になり、ランチセットのサラダやパスタの量が心なしか少なくなったように感じました。連れの知人もパスタを前にして「具材が見当たらなくて麺ばっかりだ」と言い出します。
 
 こんな小さな変化があり、しばらくその店から足が遠のいていたのですが、先日数ヵ月ぶりに行ってみるとランチセットが200円アップされ、料理人もフロアの女性たちも誰一人知っている顔はいなくなっていました。隣席の老婦人がグラスワインを頼むとすごく慎重にチビチビとボトルからワインをグラスに注いでいます。「多い量を注いでしまったら怒られる!!」とそのへっぴり腰の背中に書いてあるかのような慎重さで老婦人も怪訝な顔をしています。気が付くと昼時なのに店内は4割程度のお客しかいません。以前はほぼ満席でミセスやママ友がランチをゆっくり楽しむ姿があったのに。
 
 気になってネット検索をすると、その老舗は大手居酒屋チェーンに買収されお客の知らない間にオーナーが変わっていたのです。具材が少量の麺だけ定番パスタ、1ミリでも多く注げないグラスワイン、ペッチャンコなフルーツタルトに決定打はテーブルに貼られた老舗の歴史アピールPOPとしらす○円、卵○円というトッピングリスト。「ラーメン屋じゃあるまいし老舗の定番パスタにトッピングはない!!」と連れの言葉でこの店との縁は切れました。オーナーが変わることで客が支持していた適性感覚を見失ってしまったのです。
 
 

●適性品質・適性量・適性価格が“コスパ良し”
 どんなリッチな女性でも自分の身近なモノやコトに対してはケチな目線を持っているものです。とてもリッチな友人と食事に行くと「ここの店のサラダはダメね。貝割れ大根が入っている」とか「さっきの料理のキノコとパスタのキノコ、同じ食材で原価抑えてるのね~」とかよく観察をしています。
 
 しかし彼女の目線は意地悪ではなくその店の価格帯に応じて食材の使い方や工夫を良しとしたり、高プライスなのに安い食材にNGを出しているという“適性さ”に対する観察力なのです。これは日頃スーパーで買物をする人であれば誰もが持っているコスパ感覚だと思います。私自身もとても共感できる目線です。
 
 今は安かろう悪かろうの時代ではなく、安くても質の良いアパレルや雑貨が生活を便利にしていますが、食に対してはよりグルメを求める時代になり多少高くても質や希少性や旬に対する欲求が主流となっています。外食は安いものが良いのではなく“適性品質・適性量・適性価格”というバランスの良さを“コスパ良し”と評価する感覚を、男性以上に女性たちはさまざまな情報の中から判断する時代になりました。
 
 前述の体験で飲食店3店のコスパ感を再認識した食欲の秋です。
 
 
(記:島村 美由紀/販売士 第35号(令和元年12月10日発行)女性視点の店づくり⑳掲載)