販売士
女ごころに刺さるネーミングとは?
私たちは日々、何百何千もの固有名詞にかこまれて暮らしています。家族や友人の名前、仕事相手の名前や会社名、カフェやレストランの名前に小売店、商品の名前、ネットフリックスの人気映画のタイトルetc….
なじみの名前は覚えていますが、固有名詞が思い出せない時が多々あります。「ほら、こないだ行った青山のカフェでおいしかったケーキは・・・?」「ああ、リオカフェのタルトタタンね」なんて親しい友人だとあうんの呼吸で会話が弾みますが、親しくない知人では「え~っと、名前が思い出せないけど、このあいだ美味しいケーキを食べてね。なんとかタタンとかいう名前のヤツで」「それタルトタタンでは?」「そうそう、そのタタンよ‼」なんて間の抜けた調子になってしまいます。
特に近頃は固有名詞が複雑化しているので記憶に残りにくく覚えるのに悪戦苦闘です。この時は“タルトタタン“というケーキらしからぬ変わった名前だったので記憶の隅に残っていて会話は無事に進行しホッとしました。(タルトタタンは19世紀後半、ホテルを営むタタン姉妹が林檎のタルトを作る時に失敗をしたことから生まれたフランスのお菓子)
さて今回は、情報化社会の中で「人の気持ちに刺さるネーミング」について思いをめぐらせてみましょう。
●名のつけ方ひとつで劇的変化
バブル経済入り口の1980年代、大手アパレルメーカーから「フレッシュライフ」という紳士用抗菌防臭靴下が発売されました。今では抗菌防臭は当たり前になっていますが、40年前は画期的機能を持った商品だったはずが売上は伸び悩むばかり。そこで発売から6年後に「通勤快足」という商品名に変更したら売上は十数倍に伸びたそうです。誰が・いつ・どんな効果があるのか、をたった4文字で言い切った見事さと、意外性ある靴下の名で注目されたというネーミングのヒット作です。
花粉症やカゼをひきやすい人は鼻をかみすぎて鼻のまわりが赤くなってしまうことがよくあり、そのシーズンにはティッシュの箱を抱えて歩きたいほどのシンドさです。そこに光明をもたらしたのは「鼻セレブ」というしっとりしたティッシュペーパーで、通常のティッシュの約1.5倍の価格ですがビッグヒットとなりました。この「鼻セレブ」、実は「モイスチャーティッシュ」からネーミングを変更してヒット商品となり、ウサギやアザラシのかわいいお顔をフォーカスしたティッシュらしからぬ印象的なパッケージの改善も伴って鼻かみ族の人気定番商品に成長しています。
この例のようにネーミングの付け方次第で平凡商品でおわるかビッグヒット商品になるか、大きく売れゆきが左右されるのですからネーミングとはけして軽視できない重要な役割を担う存在であることが理解できますね。
●女ごころにグサッとくるネーミングとは?
女ごころにグサッと突き刺さるネーミングはあるのか」と聞かれたら、あなたは何と答えますか?
ネーミングに男ごころ、女ごころの差異はあるのでしょうか。答えは「大いに有り」です。
ことばの音の響きは潜在的に人の心を動かす力を持っていて、発音をする時の口や喉や舌や空気の吸引という動きから身体で音をとらえ、硬さ・強さ・スピード感・ドライ感の四つの質感から音に対する印象を脳が理解するといわれています。
では、女性が好印象を持つ音とはどんなものでしょう。それはS・P・R(L)から始まる音だといわれています。例えば“S“の音は適度に湿った空気・スムーズな動き・風の流れや光の流れをイメージさせる質感があり快適感の音を代表します。“R“の音は丸めた舌の先を歯の付け根あたりで弾いて出す音で、この弾く動きは軽やかなリズムを感じさせ継続性や自然な流れのイメージにつながり、知性を感じさせる音やガラスを弾いた時のリンという音に似ていることから透明感を印象付ける音とされています。女性市場では「R(L)はキレイ音」と位置付けられ美を欲する女性から圧倒的な支持が得られる音です。
男性が好印象を持つ音とはどんなものでしょう。それは濁音のB・G・D・Zから始まる音です。濁音は喉を締めて息を発したり舌を上あごに密着させながら強く発する音によって生まれるため男性が持っている意識を刺激する音で、スピード感、強さ、硬さをイメージさせる質感の音です。
このように、女性の脳(こころ)、男性の脳(こころ)にひびく音から始まるネーミングを身のまわりで探してみると、シャネル・ペリエ・マカロン・サボン・シュウウエムラ・セザンヌ・サマンサタバサetc…。ゴルゴ13・ガンダム・ビーエムダブリュー・ゴジラ・バルクオムetc…。女・男それぞれ数限りなく思い出すことができますね。
このほかにもM音は母性・やさしさ、T音は充実感・確かさ、H音はリラックス感を感じさせる質感を持っています。口や喉や舌の動きが脳神経を刺激してあるイメージを持つという脳科学に基づいた音のはたらきがが、実はマーケティングの世界でも多様に活用され女性を狙ったネーミング、男性を狙ったネーミングとして考案されているわけです。
今回は店舗や売り場に直接関わりのないお話をしましたが、皆様のお店の名前や取り扱いブランド名などを今回の視点でチェックしてみると、「なるほど、女性客に好かれるわけだ!」とか「男性客には少しニュアンスが不足してるかも」とか観察する視点が増えるのではないでしょうか。またもし皆様が店舗の立ち上げや商品開発に参加した時には今回の視点が大いに役立つ知識となるはずです。
ちなみに弊社もR音から始まる社名という事にいま気付きました。(笑)
(記:島村 美由紀/販売士 第45号(令和4年6月10日発行)女性視点の店づくり㉚掲載掲載)