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2015.09.11

販売士

大切なのは「物は試しにスピリッツ!」

 

 新店をオープンすると、不安なことが山のようにあり、あれでよいのか、これでよいのか、迷いの日々を過ごす経験をお持ちの小売サービス業の方は多いのではないでしょうか。

 

 先日、こんなことがありました。ある商業施設の食品ゾーンのリニューアルで、新店がいくつもオープンしました。開業3日目にA店から看板を変更したいという申し出があったのです。提出図面を見ると、リニューアル時に設置した店名だけの看板に取扱商品名を複数入れ込んだパースが描かれていました。さらに壁には商品を写したオーバーサイズのポスターを掛けたいとの話なのです。

 このA店は開業前に内装が仕上がったとき、とてもバランスのとれたインテリアで「大人女性好みの良い店になりそうな予感」がしていたので、開業後たった3日間での申し出に残念な思いがしました。理由は、変更の申し出がされたのは案の定、他店と比較すると売上が思わしくなかったからでした。

 

足元のやれることからやってみる

 A店の様子を見に行く、厳しい顔をしたA店幹部が店の前に立ち、腕組みをして店内を眺めています。幹部がこわい顔では、お客様が入店する気にはなれません。そして幹部は、私の顔を見るなり「あの図面を出した件、変更したいのでよろしく」と言うのです。
 ちょっと待った!今の店づくりでもやれることはいろいろあります。まず隣の店のように元気な声で呼び込みをしてみましょう。そしてA店にしかない個性や価値でお客様にアピールしてみましょう。最高級のお米を使っていることや、超有名百貨店に出店していることは、お客様にとって魅力的なポイントですよ。売りたい気持ちはわかりますが、こんなに商品を山積みにするのはやめましょう。美味しそうな感じが台無しいです。お弁当のパッケージもこんなスタイルに変えたらどうでしょうか。具材はいいのにパッケージがミスマッチで安っぽく見えていますね。そして、店頭では感じの良い販売員さんがお客様を出迎えましょう・・・と話をしました・・・

 まずは足元のやれることからやってみましょう。「物は試しだ」の精神が大切ですよ。看板を変えるのはそれからでも遅くないはず。まだ3日ですからねと話したつもりだったのですが、翌日A店を見に行くと、その幹部は客のいないテーブル席に座り込み、店内から通路を眺めていました。物は試しにスピリッツはなさそうです。

 

チャレンジには展開がめぐってくる

 同時期に同施設内にオープンした新興のお菓子屋さん・B店は、オーナーご子息が責任者として切り盛りしています。全身黒づくめで黒のロングエプロンは、今時のパティシエスタイル。店頭で元気に声かけをしています。奥のイートインスペースが今一つ活性化していないのが気になるそうで、内装が落ち着きすぎているのかもしれないと言ってきました。

 そこで簡単な方法としてテーブルに掛けるクロスや、通路から見たときの生け花の活かし方を立ち話で提案したところ、その足で近くの雑貨店に出向き、フラワーベースやクロスを買物して、30分後にはいい感じのイートインスペースが出来上がっています。

 「いやあ、男だとわけわからないけど、女性目線は違うものですね」と、私を引き立ててくれましたが、私は彼の「物は試しにスピリッツ」脱帽です。

 実は開業前に施設キャラクターでオリジナル商品づくりの話を持ちかけたとき、他店は「本部の意向」や「型おこしのコスト」を問題にしてNGだったのですがB店だけは「まずパッケージから」とキャラクター印刷した包装紙でケーキを包み、日に30本から40本のホールケーキを売っているのです。

 「そうか!試しにやってみようかな」と思える人には、新しい展開がめぐってくるものです。しかし、この彼は「パティシエスタイルには、コック帽を被ると人目についていいのでは」という私のアドバイスには「ダメダメ、僕は帽子が似合わないんですよ」と言ったきり、被ってくれません。意外と自分のことには「物は試しにスピリッツ」が起動しないのかもしれませんね(笑)。

 

店の進化のために大切なこと
 さて、長い間商業コンサルタントとして小売店や飲食店のかたと多くお会いしていると、店の進化のために一番大切なことは何かと質問されることがたびたびあります。永遠の課題だと思われるほどに、店を進化させていくのは<困難なことですが、進化している店の多くは前段で例を挙げた「物は試しだ、やってみよう」というアグレッシブな気持ちと行動力を持ったキーマンがいる場合が多いように思います。
 A店の幹部は、「頭で小売を考える」タイプの男性のようで、じっくり考え、結果が行動に結びつくまで時間がかかるのでしょう。その間に店はどうなることか、ちょっと心配です。
 B店の責任者は「ダメもとでやってみよう」とトライアンドエラーををおそれず、動き回った結果で店を活かしていくタイプの男性のようです。世の中、多種多様なタイプのキーマンがおられますが、日々変化する小売の世界では、「物は試しにスピリッツ」を持ったキーマンが明日の売上を生み出していくように思います。
 あなたは「物は試しにスピリッツ」をお持ちですか。

 

 

(記:島村 美由紀/販売士 第18号 (平成27年9月10日発行)女性視点の店づくり③ 掲載)