MAGAZINE

2016.06.17

販売士

大いに借りよう 男目線・女目線!

 

 ある飲食店の話です。
 知人がおいしいというので時々食べにいっていた麺屋は、問屋街のまんなかにあって客層はさまざま。問屋の従業員、仕入の小売店スタッフ、海外からの買い付け客もいて、にぎわっています。個性的な麺のメニューで確かにおいしいのですが、器は給食の食器のよう。サラダを注文すると、千切りキャベツにコーンが4~5粒のっているという色気のないもの。セットの定食になると、白いご飯にタクアンがついてくるという超定番組み合わせ。トイレのドアのそばがすぐ客席というレイアウトを見ても、場所柄、実用性一本やりの店舗なのだと思っていました。

 

女性客を呼び込むつもりの「粘りと弾力」
 昨年たまたま仕事で、あるオフィス街の近くにある商業施設の新店として、この店を誘うことにしました。本社の開発部に連絡をしたところ、「出店はしたいが、当方は女性をターゲットにした店なので、男性客が多い立地はイメージできない」との話があり、驚きました。「どこが女性なの!?」と耳を疑ったのですが、「オフィス街ですからOLさんも大勢います。今よりもっと女性にウケる店にして出店をお願いします。よろしければ私たちも協力しますよ」と説得をして出店を決定していただきました。
 その後、私たちのアドバイスを快く聞いてくれ、器やサラダの盛り付け屋食後のデザートメニュー開発、お洒落な内装に桜色の暖簾など問屋街の店とは雲泥の差がある素敵な麺屋になり、予測どおり女性客中心に集客があり満席の日々でした。店のスタッフも感じの良い女性スタッフや、男性店員も小柄で物腰の柔らかいスタッフが接客をしてくれ好調でした。
 しかし数ヶ月経過後にやや客足に陰りが見え始めたある日、店頭に大きなイーゼルが立ちました。「ソースに絡みつく手打ち麺」「粘りと弾力」のパネルにはうたってあります。案の定、30代40代サラリーマンがパネルをのぞきこみ、桜色の暖簾がバサッと開いて問屋街の店のスタッフのような体育会系男性スタッフが「ラッシャイ!!」の呼び声をかけています。
 「あらら……」と思い本社に連絡をすると、「女性客を呼び込もうとパネルをつくったのですが」の弁。女性を誘うのに「粘りと弾力」も「ラッシャイ」もNGなのは男性目線では気付かなかったのですね。私たちに相談してくれたら女性目線で発想できたのに残念です。

 

男性客を引き込む売場を目指したものの
 この話とは真逆な経験談があります。
 あるプロジェクトで惣菜広場を計画したときのこと、男性客にもウケる売場づくりを目指してハイカロリーな揚げ物惣菜や肉惣菜を出来る限り入れ込みました。当方、女性ばかりのプランニングメンバーなので「ハイカロリー」は日常の敵なのですが、このときばかりは「がっつり」「コッテリ」を合言葉としてハイカロリー惣菜の開発に取り組み、試食も可能な限り行いました。普段では決して口にすることがない惣菜を車中で試食、また次の店へ車で向かって惣菜を車中で試食を行いつつの惣菜売場プロジェクトクトで、当時はずいぶんのどの渇いた数ヶ月間だったことを覚えています。
 惣菜売場を構成する約20店舗のめどが立ちほっとしたところ、プロジェクトをそばで見ていた30代男性から「ハイカロリーへのつっこみが足りない」と言われ、ショックを受けました。「ヘルシーのつっこみだと得意なんだけど、ハイカロリーのつっこみはまだまだ理解が弱かった。どこかでブレーキをかけていた私たち」を大いに反省しましたが、本当の男性が持つハイカロリーマインドを持てる日はこないのだろうと思い、その後はハイカロリー男性に「これどう思う?」とアドバイスを求めるように切り替えています。

 

 「お客様の気持ちになって」「お客様のニーズを知って」とよく言いますが、自分には持ち合わせのない目線は、他の人の目線を借りるのが良い策ですね。
 特に男目線や女目線は周囲の異性に協力を!

 

 

(記:島村 美由紀/販売士 第21号(平成28年6月10日発行)女性視点の店づくり⑥掲載)