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2015.03.16

販売士

壁に耳あり、障子に目あり

 

 私の住む街には、徒歩圏で大手中小さまざまな食品スーパーマーケットが6店舗もあり便利な生活環境ですが、スーパーにとっては競争が激しい地域でもあります。

 

 そのなかで中堅スーパーであるA店では、レジは自分で袋詰めするセルフ方式なのですが、お年寄りがレジにくると、会計後に商品の入ったかごをキャッシャーがセルフの袋詰めをする台まで運び、「はい、おばあちゃん、ここでお願いしますね」と声をかけています。また、ある時はマタニティの女性にも「はい、どうぞ」とかごを運んでいました。

 後方に並んでいる私には何の関係もないことですし、元気な普通のお客様には普通の対応の店なのですが、その光景を見て「良い店」という好感度がぐっと上がります。時々見かけるこの対応に「Good!!」の好印象が強く残ります。

 

他人ごとでも不愉快な体験

 皆さんもこんな体験はありませんか。早めに1人で入ったランチ前の空いているレストランで端の狭い席に案内され、嫌な思いをしたことが。

 先日、東京駅近くのレストランで仲間と早めの昼食をとっていたら、近くの席の男性の1人客が案内されてきました。「お客様、まだ混みだすまでには時間がありますから、この広い席をお使いください」と、その黒服のマネージャーは愛想良く語りかけています。

 時間を見ると、11時30分過ぎ。おそらくマネージャーは「ランチタイムの混雑までには、あと30分。 男性客だからそんなに遅くならないだろう。それなら気持ちよく広い席でランチを楽しんでいただこう」という思いで接客をしたのでしょう。こんな自然な対応をされると、お客側も「お店に迷惑をかけないよう、ほどほどの時間で席を立とう」と優しい気持ちになれるものです。

 近くで2人のやりとりを聞いていた私たちも「1人客は端っこの席に」の嫌な経験を何度もしてきただけに、他人ごとながら「Good!!」な気分になりました。

 

 さて、あるときの観光地での出来事。ガイドブックにも出てくる有名なお食事処に行きました。厨房のそばを通り抜け、トイレに行こうとした私の耳に聞こえてきた仲居さんたちの話が「あの女性、2人連れなのにすごいのよ。 こんなにたくさん注文しちゃって。ちょっと食べすぎ、大食い女だね」と言っているのです。

 その店は、ご当地でもトップクラスの旅館が経営するお食事処なので、ガイドブックやネットにもおいしそうなお料理がたくさん紹介されていて評判が高い店でした。友人と私もメニューを見て、どれを注文するのか迷いました。若い女性であれば期待をして来店し、「全部食べちゃおう!!」の勢いにのった注文だったのかもしれません。「大食い女」はさすがにひどすぎますが、その前にお客さまのうわさ話をする場所と時をわきまえなければなりません。

 たくさんの注文は売り上げ貢献につながるので、店にも仲居さんにも良いお客のはずなのですが。私もどこかで「大食い」とか「ケチ」とか言われているのかしらと、嫌な気分になってしまいました。

 

 同じような出来事ですが、行きつけの渋谷にあるファッションセレクトショップの大きなフィッティングルームで、私が顔見知りの店員の接客で試着をしていたとき、若い店員に連れられて新しいお客が入ってきました。そのお客が脱いだ靴をそろえた直後、その店員はほかの店員と視線を合わせて一瞬笑っています。その後、試着を終えたそのお客が出てくるときも、若い店員同士が視線を合わせて笑っています。

 実はそのお客の若い女性は、かなりの肥満体型で、靴もビッグサイズでしたし、試着も大汗をかきながらでした、渋谷のセレクトショップに勤める女性たちは、皆かわいくきれいで化粧も上手。ファッションセンスも良く、すてきです。自信のある彼女たちから見て、そのビッグサイズのお客がどう映ろうが、販売のプロであればそのお客がどんな期待と憧れを持って、そのセレクトショップに来店したのかを理解し対応しなくてはいけないはずです。

 若い店員同士の一瞬の目配せではありましたが、私は行きつけの店だけに残念な気分になりました。その後、その店の利用は少し回数が減ったように思いますし、「顔なじみのベテラン店員がなぜ若い店員の教育を しっかりやらないないのかしら?」との思いになりました。

 

常に見られているという意識を

 「壁に耳あり、障子に目あり」。このことわざは、現代に至るまでよく使われていますが、「秘密は漏れやすいかいら注意しなさい」という戒めです。

 特に、女性視点の店づくりを進めていくときには、女性客は自分に対してだけではなく、ほかのお客に対しても、その店がどんな姿勢で対応しているのかを男性客よりも鋭く観察しているものと心得、それが「その店の印象、評価を変えていく」と肝に銘じるべきです。

 常に見られ評価されていることに注意を促すという新解釈で、「壁に耳あり、障子に目あり」を新しいキャッチフレーズにしていくのはいかがでしょうか?

 

 

(記:島村 美由紀/販売士 第16号(平成27年3月10日発行)女性視点の店づくり① 掲載 <新連載>)