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2017.04.04

不動産フォーラム21

商機は先取りより旬にあり

 

 年明け早々の1月に、2016年全国百貨店売上高が5兆9,780億円となり6兆円割れを起こしたのは1980年以来の36年ぶりであるという商業界にとってはショッキングなニュースが発表されました。

 

「先取り買い」をやめた人々

 マイナスの要因は百貨店の主力売上である衣料品が低迷し、訪日外国人による免税売上高も一時の勢いはなくなったことが挙げられています。
 全国百貨店売上高のピークは1991年の9兆9,130億円で、今や昔話になってしまった日本経済バブル華やかな時代の最終章が1991年だったわけです。しかし、現在ではその頃の6割の売上規模になってしまったわけですから厳しの一言につきる百貨店業界ですね。
 では、百貨店が得意だった衣料品の売り方とは何だったのかを思い出してみると、「ファッション衣料の先物買い」だったことに気付きます。ジャストシーズンより2~3ヶ月早く百貨店のウィンドウには流行しそうなファッションが展示され、おしゃれ好きな人々の視線を奪ってきました。コートの襟を立てる真冬の1月から春のパステルカラーのファッションがディスプレイされ、消費者はいち早くトレンドをキャッチして買物をし、一歩も二歩も早くシーズン先取りファッションを身にまとって楽しんでいました。私もその先取り買いの一人で、1月から薄物ワンピース、9月からウールのコートを買い、クローゼットでストックしていたものです。
 首都圏の有名百貨店がファショントレンドの情報発信源になり、専門店や地方百貨店にトレンドが波及するカスケード(上から下へ)型の消費が成立し、消費者は先取り買いを受け入れていました。
 しかし、2000年以降、ユニクロのようなリーズナブルでほどほどのクオリティがある衣料品が出回りネットショッピングですぐにほしい物が手に入る時代にシフトしてくると、消費者は「先取り」ではなく、今を楽しむ「旬買い」のファッションの楽しみ方に変わってきました。また、世界全体のファッショントレンド感覚も大きな変化が生まれ、夏でもウール、冬でも麻というように素材やスタイルなど従来型の衣料セオリーではなく、着たい物を自由にいつでも着るという価値観が生まれ、「衣替え」という習慣すらうすくなってきています。
 先日、日本のトレンド発信源として一斉を風靡した伊勢丹百貨店を経営する三越伊勢丹ホールディングスの社長が辞任しましたが、「旬買い」に対応する百貨店改革を目指した人物だったそうです。

 

百貨店も「美と健康」の時代へ

 新宿にある高島屋では婦人服売場を5層から4層に縮小し、新たにスポーツ衣料や美容品のほか、フィットネススタジオを設けた新しいテーマゾーンを3月中旬にオープンしました。このゾーンにはユニクロの新業態のスポーツウェアショップやヨガウェア専門店や発酵食品が楽しめるカフェが編集されています。
 言うまでもなく衣料品が売れず高齢化傾向とモノからコトの提案へと時代がシフトしているからこその高島屋ならではの工夫なのだと思います。
 近頃は“アーバンアウトドア”への注目が高まり、本格的登山ではなく里山ウォーキングや低山ハイキングを楽しむ中高年層が増加、またキャンプも本格的なアウトドアキャンプではなく、自宅の庭やベランダでホームキャンプを気軽に楽しむ家族イベントが流行しています。先日はスーパー銭湯でグランピング(グラマラス+キャンピングの造語でテントやロッジに宿泊して快適な環境の中で自然を楽しむという意味)体験施設を併設という話を聞きましたので、“アーバンアウトドア”の流行は身近なものとなり、百貨店顧客層も一般ファッションへの購買意欲より、友人や夫婦、孫と一緒に楽しめるスポーツやアウトドアへの関心が消費のトリガーになるのは自然のなりゆきですね。

 

 世界の中全体が、ますます今を楽しく今をしあわせに元気に生きることを価値とし、そのための消費に変わってきていると実感します。百貨店も専門店も“商機は先取りより旬にあり”というわけです。

 

 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2017年4月号掲載)