繊研新聞
商業の面白さ知るSC学のすゝめ-“見るだけ”でなく分析や考察を-
「商業施設の見方や学び方は?」と商業関係者から聞かれることがよくある。新設やリニューアルで行ってはいるが“見るだけ”で分析や考察を深めないため“知識やスキルとしての蓄積”ができず専門性を深められない。残念なことだ。4月は商業ディベロッパーに新人が入社し研修が始まる時。先輩から伝授するハウツーが希薄では若手が商業の面白さを知る前に商業に飽きてしまう。人材不足時代に惜しいことだ。
「SC学」とは商業施設を知り商業文化を考察する学問で、深めるほど面白い発見がある。その入り口はフィールドワークから始まる。
さほどの準備は不要だが日程には留意を。休日か平日かは施設の性格によるが、人流が多い時間帯などを選ぶ。できれば給料日後の月末・月初が望ましい。ネットなどで施設動向をチェックするのも行きの車中で十分だ。フロアガイドは事前に見るべきだが、近年はネット検索が主流なので、プリントして持参すると現場での気付きをメモに取りやすい。
●現場はじっくり
現場での重要ポイントは“MD・環境・人の動き”だ。“MD”は業種業態構成とテナント構成で、どのような業種業態でゾーンやフロアを編成しているか、それをどのテナントを出店させ具現化しているかを確認する。ベテランになるとフロアガイドで「行かなくても分かる」と思いがちだが、予想を超えた工夫が発見できたりするので百聞は一見に如かずの精神は大切だ。
特に優れたディベロッパーは業種業態構成で従来にない型破りな組み合わせや魅力的な新テナント(ブランド)をデビューさせるなど、新しい商業スタイルに取り組んでいて勉強になる。店舗内装デザインや商品構成もポイントだが中級者以上なのでここでは言及しない。テナントの組み合わせを研究しよう。
“環境”とは館全体の外観や館内のデザイン力で人を迎えるエントランスや人を集める広場・吹き抜けのあり方、館内の縦動線(エスカレーター・エレベーター)や通路の配置や回遊性や幅員、距離・区画割りなどが上手に計画されているかを現場でチェックする。これこそ事前情報では分かりにくい点で現場を歩き体感することで施設計画の良しあしが分かり五感で商業を感じることができる面白味だ。
“MD+環境”の融合した結果が“人の動き”につながり、集客力があり人が館の端々まで回遊し満足げに楽しむ姿を生む。「どんな人たちがどんなグループでどんな店を利用しているのか」これを視察中に常に観察することが大切だ。できれば食事や買い物をして周りの客の会話を聞いたり、店舗接客のレベルを知るのも手掛かりになる。
館内をじっくり見ていると人が集まるゾーンや人通りがないゾーンが見えたり、足早エリアやゆっくりエリアも分かってくるので時間をかけ施設を観察することで知る情報は増える。
●後にやるコト
実はここからが大切な点で、復習をする人としない人ではプロへの道は変わる。復習は簡単だ。帰り道で再度フロアガイドなどを見ながら現場で見たこと、聞いたこと、感じたことを反芻し、メモにしてみると施設の特長が整理できる。
その施設を知っている知人と意見交換すると新たな視点や気付きが増えるのもプラス効果だ。言葉にすることは語彙力強化にもなる。さらに建築雑誌やネット情報で施設を調べると疑問や仮説への回答が得られる場合も多い。これも特長の整理に役立つ。
●継続は力なり
この商業施設を知る行動を継続していくと、SC学とどのように結び付くのか例をあげよう。
当社は80年代から今に至るまで学んだ商業施設のフロアガイドをストックしている。全国主要商業施設(百貨店含め)は半年から1年ペースで視察し保存し続けている。ストックしたフロアガイドを年次ごとに分析するとその館のMD戦略のシナリオがテナント構成により見え、テナント出店位置の変化や出店施設によりブランドの栄枯盛衰も分かり仕事の情報源となる。
ディベロッパーであれば競合施設が次に何を狙うのかの研究になり、優れたディベロッパーの先進事例研究にもなる。これらの考察の中から市場変化や商業の新潮流がみえてくる。自分たちの進むべき道への仮説を立てやすくなるわけだ。月に1施設を心掛けると年に12施設、10年では120施設を考察でき商業施設を体系化でき、その知識が自己の商業文化論として語れるSC学となるはずだ。
(記:島村 美由紀/繊研新聞 繊研教室 2025年(令和7年)4月22日(火)掲載)