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2018.10.03

日経MJ

商いのまち、緑と融合 -なんばパークス「見せる管理も」-

 

 「ビック・パーク・シティ」を目標として、大きな緑地に街をはりつけた商業施設、なんばパークス(大阪市)。1万平方メートルを超える段丘状の緑地帯を15年にわたって守り育て、今では街のオアシスとして重要な存在になった。再開発が進む大阪・ミナミで商業と緑の融合を探った。

 

かつて大阪球場、都会のオアシス

 メインフロアである2階に「パークスガーデン」の入り口がある。なだらかな階段を上ると小さなせせらぎ、緩やかな小路、木陰のベンチ、かれんな野の花に樹木の葉音が聞こえてくる。途中のベンチには孫と休む老夫婦やランチタイムの女性会社員がいる。まるで里山を散策しているようで、苦もなく9階まで上ってしまえるのが不思議だ。

 商業施設に屋上庭園や植栽を導入するケースが増えているが、なんばパークスほどダイナミックに緑を創出している施設はまれだ。

 商業施設に目を転じると、「キャニオンストリート」と名付けた2階は、渓谷を旅するようにそそり立ちカーブする壁面が迫りくる。谷間を縫うように店のウィンドーを眺めながら歩いていくと、奥に奥にと足が進む。壁面は2種の石を使い華やかな商業空間を演出している。

 大阪出張で時間があると、キャニオンストリートで買物をして6階にあるカフェのテラス席で緑を眺めて食事をする―。それがストレス発散という人もいる。店舗面積5万1800平方メートルの商業施設と、その5分の1近くを占める大規模な緑地帯のマッチングは、15年前の緻密な計画の成果といえる。

 かつてこの地には大阪球場があり、プロ野球、南海ホークスの本拠地として、また国内外のアーティストのライブ会場として半世紀にわたりファンを熱狂させてきた。このにぎわいを途絶えさせないためになんばパークスの開発に乗り出した。

 難波はミナミの玄関口だったが、雑然とした歓楽街で買物客は北側の心斎橋に流れていた。街の印象を変え人を滞留させるために行き着いたのが「森をつくる」アイデアだった。

 南海電鉄都市創造本部の岡崎義章さんは「効率を求めて箱形のビルで容積率800%を効率消化するのではなく、コストパフォーマンスが悪くても森づくりを優先した。」と振り返る。米建築家、ジョン・ジャーディさんの構想のもとに、段丘状の緑と絡むような商業・オフィス棟が生まれた。

 ただ500種、10万株もの木々や緑地を維持管理するのは、通常の商業施設に比べ負担が大きい。元旦以外の364日、8人のガーデナーが管理にあたる。

 開業時から緑地を管理するパークスガーデン事務局の総括責任者、西塙征広さんは「『見せる管理』をモットーとして、ユニフォームもおしゃれにして昼間に作業をしている。来園者がいる時間帯に管理をすることで、来園者と植物や天気の話をしてつながりをもちたいから」と話す。9月には台風で木々が折れるなどの被害があったが、10月上旬には緑も穏やかな表情を取り戻す見通しだ。

 

ゆとりある空間、不動産価値生む

 緑あふれる商業施設は買物の仕方も変える。同じ店が梅田や心斎橋にもあっても、なんばパークスに来る人はゆったり時間をかけて買物を楽しむ。客単価が高く、テナントからの評価も高い。オープンモールであるキャニオンストリートの店の個性やカフェの楽しさが連続し、商業の場の価値を上げている。

 なんばパークスを担当する桜井敏明さんは「緑とゆとりある空間開発は不動産価値を生んでいる。駅から離れた場所だが賃料は駅前と同等の単価を維持でき、テナントレベルは駅前以上の集積を実現している」と力を込める。

 17日には近隣に新オフィスビル「なんばスカイオ」(延べ床面積8万4000平方メートル)が開業する。日本の玄関である関西国際空港から訪日客を中心として多勢の人々を出迎える難波は、世界に向けたゲートシティとなる。スカイオには海外企業の進出も決まり、多国籍なオフィスの集合体になる。
  今後は南へ向かった街づくりも推進していく。次の10年を見据えた動きの核として、巨大な緑を備えた商業施設がこれからも育っていく。

 

 

(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2018年(平成30年)10月3日(水)掲載)