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2024.02.28

日経MJ

個性派続くよ 東急高架下-中目黒、柱の間で「顔」競う店-

  

 鉄道の高架下が駅の改良や耐震工事をきっかけに新たな商業やサービス施設など人を集めるゾーンへと変わり、街づくりに貢献している。その中でも注目は東急プロパティマネジメント(東京・世田谷)による「中目黒高架下」といえそうだ。2016年の開業から7年経過し、地域の住民や来街者らを取り込み、昼夜問わず街ににぎやかさをよぶ成功事例となっている。

 
 

若者・訪日客の視線捉える

 中目黒は代官山につながる山の手感といまだに残る庶民的な商店街、目黒川沿いのファッションショップやグルメスポットなどがあり高級と大衆が入り交ざった独特な雰囲気の街だ。その中心の駅にある「中目黒高架下」は街の代表的な顔になっている。

 

 目黒川から山手通りを越して祐天寺に向かう700mの高架下に店舗を連ねているのが中目黒高架下だ。1970年代よりここには商店や飲み屋があったが、駅の改良工事に伴いゾーンを一新し、街に溶け込み多くの人々に利用される高架下を実現した。

 

 36店舗はメジャー店もあればマイナー店もあり混在している。マイナー店はメジャー店のブランド力に引っ張られ店の格が上がったように見えるし、メジャー店は高架下環境にブレンドされ、中目黒らしい独特の雰囲気を出している。全体が“面白そうな店舗の連なり”を人々に感じさせる。

 

 この連なりは歩くほどに次から次へと店ごとの顔が見えてきて人々を前へ前へと誘導する不思議な力を持つ。その源は店舗づくりにある。橋下部とそれを支える列柱はフレームとなり統一されたデザインとし、柱には住所のようなナンバーが刻まれている。

  

 その柱間にある店舗は個性的な個別ファサードデザインで店のスタイルを主張し、往来の人の視線をキャッチしている。これが「店の個性で街を歩くきっかけづくりになる」と東急プロパティマネジメント事業本部の拝原寛担当部長は言う。

 

 店舗づくりも自由なら運営も電車の運行と往来の人の安全を第一にした上で個々の店舗スタイルに任されている。営業時間は自由で統一したプロモーションはなく、情報発信も店舗独自におこなっている。

 

 開発当時から現在まで店舗選びは「ローカライズ」がキーだ。近年、都心商業施設や大型商業施設はメジャー店舗群の主戦場で統一されたルールやプロモーションの下で館全体の集客力と回遊を共有する商業のあり方が主となりどこも画一化されてきた。

 

 それに対し、中目黒の高架下という特殊な場ゆえに地域へのこだわりを軸にすえ、街に縁のある事業者を選んだ。例えば中目黒に本社や営業拠点がある、トップが中目黒に居住しているといった視点で店を選び、多種多様な店舗群でそこはかとなく発揮される地域色が街に溶け込むパワーになっている。

 

 年々、中目黒の来街者は若年層が増えている。目黒川の桜が有名になり「スターバックス リザーブ ロースタリー トーキョー」ができ、さらなる集客ポイントが加わって中目黒高架下にもコロナ禍の沈静化以降、若い来店客が増加した。加えて、インバウンドの代官山・中目黒ウォッチングが増えにぎやかになっている。

 

 「若年層やインバウンドへの商品やメニューなどの変化対応力、地元客や常連客に支持される店主を中心にした面白みのある接客力の2点が好調店の共通特長」と佐々木智綱リーダーは言う。地元客・常連客ばかりでは固い店になる。来街客ばかりでは一過性の危険がある。中目黒という都市エッジの街だからこそ来街者と地元客のちょうどよいバランスのとり方が7年間の好調の秘訣であろう。。

 

 祐天寺寄りには「ナカメギャラリーストーリート」というスタジオ・ショールーム併設型のスモールオフィスが複数事業者入居をしたゾーンになっている。窓越しに若いクリエーターやプランナーが仕事をする姿が往来の人から見えて新しいワークスタイルを知ることができるのも中目黒らしいカッコよさだ。

 

 今年夏に2つ先の学芸大学駅の「学大高架下」に新たなゾーンも加わり、リニューアルが予定されている。そこにはスモールオフィスや住宅併設型スタジオなど中目黒高架下で誕生した業態の進化版が計画されている。これからの高架下ブランドがさらなる創造型となり街づくりの拠点になることを期待したい。

 
 
(記:島村 美由紀/日経MJ「デザイン面」 2024年(令和6年)2月28日(水)掲載)