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2023.01.05

不動産フォーラム21

価値観ギャップには“ゆとりの心”を薬としましょう。

 

●泊まりたいのに強制終了?! 
 11月下旬、仕事で北関東N市に行くため宿探しをしたら駅近のリーズナブルホテルでB&B タイプの面白い宿を発見しました。調べると若手社長で東京からN市にうつりワゴン車販売からスタート。今では菓子メーカーや複数のこだわり飲食店や物販店の経営まで手掛け地域創生に貢献するアントレプレナーとあり、世界放浪の旅で幅広い経験者でもあるとの紹介です。B&Bスタイルの勉強になると思いネット予約しました。

 

 宿泊タイプは素泊まり・朝食付・朝夕食付とあるのでグループの代表店であるレストランに興味を持ち朝夕食付を選択しました。HPの写真もお洒落、レストランや宿の名前もエキゾチックな雰囲気で、期待ゴコロから備考欄にレストランの夕食が楽しみと送信すると、返信には「宿はとれるがレストランはランチ営業のみで希望には添えないため予約はキャンセルしておく」とあり吃驚。泊まりたいのにバサっと切られてしまいました。やむを得ず再度系列店の和食屋の夕食でもよいと予約を取り直し当日N市に向かいました。

 

 部屋はベッドと小ソファのみ装飾なしのミニマルスタイル。トイレとシャワーは共用。ラウンジとテラスがあり『朝はコーヒーを飲みながらテラスからの山並が楽しめる』と案内され気分は盛り上がります。夕食の和食屋は近所にあり案内には宿泊者がまとまって夕飯となるため遅刻厳禁とあり修学旅行生の気分です。5分前に到着しましたが準備中で入店できず寒い外で開店を待ちました。

 

 店は男性2名が切り盛りし客は私達2名のみ、楽しくおしゃべりができました。2人とも地方からの移住組で町が住みやすいので都心から移住し生活を楽しむ若い人が多い、だからレストランやカフェ・パン屋・雑貨屋・古道具屋など古い倉庫や家屋をリノベして雰囲気ある店が数年前から増加しているそう。家賃も安い、食材豊か、自然に囲まれたグットライフが送れると語ってくれます。あのアントレプレナーに憧れ働きにくる若者もいるそう。

 

 やがて2組目の若い女性の来客がありました。彼女は中学には行かず自主学習の中、16歳で九州からアントレプレナーの元にきて仕事する19歳でした。ランチのおすすめを聞くと系列店ではなく町中のグルメ情報を教えてくれる気の良い人々です。今の時代はいろいろな生き方があるのだと感心するひと夜でした。

 
 

●コーヒーを飲みながら朝の山並を楽しみたい…
 9時頃、宿に戻ると廊下のど真ん中に子供のバギーが置いてあります。そこに貼り紙が“子供が起きるからドアを静かに閉めろ”とあります。カプセルホテルのような8人部屋もある安価宿。ドアも気の利いたベニヤ板レベル。貼り紙でアピールより子連れに相応しい宿選びが大切なのではなですか、Z世代のパパ&ママさん?と心の中でつぶやきました。

 

 さて寒い翌朝、テラスでコーヒーと山並みを、とラウンジに行くとコーヒーはなし。朝食は8時なので30分前にはスタッフがくるはず、コーヒーを頼もうと何度も厨房を覗きますが真っ暗のまま。8時に食堂に行くと2名が慌てて準備に取り掛かっています。5組のお客さんの中には待ちきれず出掛けてしまうファミリーも。広く寒い食堂で男性客が石油ストーブに火を付けようと頑張ってくれました。どうやら朝担当者が大遅刻で近所に住む仲間がヘルプで朝食準備を始めたよう。30分近く経った時、食堂裏口がゆっくり開き担当青年が登場。何事もないかの様子でゆったりと暗い食堂に照明をつけていきます。

 

 出された朝食は卵もパンもソーセージも野菜も美味でした。その青年に伝えるとこだわりの地域生産者から取り寄せていると自慢顔。自信があるところは流石です。

 

 系列会社のお菓子は酪農製品生産過程で捨てられる無脂肪乳や乳清を再利用するサステナブルスイーツで、店やインスタでは美味しさだけではなくその考え方に共感するファンがたくさんいます。なるほど、共感ポイントが現代的ですね。

 
 

 時間厳守は客が守るマナー・グットライフで働き方は余裕をもって・地域こだわりで良いもの自慢・東京がすべてではない・認め合うコミュニティ・当たり前のサスティナビリティ。

 

 もし大都会でこの2日間の出来事を経験していたら怒り心頭ですが、時間に余裕のある出張だったので「そんな事も起こるんだ」「そんな価値観も有りかもネ」という寛容な気持ちで受け止める事ができました。Z世代との価値観ギャップには“ゆとりの心”がよい薬になるのかもしれません。

 
 

(記:島村 美由紀/不動産フォーラム21 2023年1月号掲載)