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2018.09.18

販売士

ワクワク・プルプル・ピカピカの女心を分析しましょう

 

女性に縁が薄い店

 「街の中心にあって女性に縁が薄い店はどこでしょう?」などとクイズがでたらあなたはどの店を思い浮かべますか。答えは“家電量販店”です。よほどの家電好きでない限り女性たちは家電量販店には行かないものです。「私は家電品が大好き」という女性は私のまわりには一人もいません。

 かく言う私も“家電量販店”には用事がない限り行きません。炊飯器が壊れた、ドライヤーが古くなった、除湿器の大きな物を…などという時に街中の大手家電量販店に出向いたことがありますが、それもかなり昔の事で最近は全てEコマースのネットショッピングで買物を済ませていますので、家電量販店に足を踏み入れる動機がなくなってしまいました。私の周辺の女性たちも異口同音に話しています。だいたい家電屋はガサガサ・バタバタしていてノイズの多い店というイメージが強く、女性にとって居心地のよいイメージがありません。さすがに昔のようにハッピを着てメガホンを持った店員さんはいないらしいですが…。
 そんな話を男性にすると真逆な反応が返ってきます。「最近の家電量販店はとっても面白いところに変わった。家電以外にも洋服やワインや寝具や玩具まで売っているバラエティストア。帰宅途中の暇つぶしにはピッタリ!!楽しい店だよ!!」と友人のA氏。そうなのですね。商品がバラエティ豊かになったことは知っていましたが“楽しい店”になったとは知りませんでした。どうやら男性にとってはより居心地のよい場に進化しているようです。

 

家電量販店が女性をターゲットに

 流通系の新聞に「大手家電量販店が男性中心の客層に対し新規女性客の取り込みを狙って化粧品売場の充実を図る計画」との記事が掲載されていました。それも1階売場を全て化粧品売場にして女性客の獲得に力を入れる内容です。
 業界内情としては2010年以降市場は7兆700億円程度で伸び悩みがあり新規売上軸を模索する中で化粧品に注目したとありました。女性にとって化粧品は関心分野であり買物機会も多い分野です。女性客→化粧品に注目をしたのは面白い目の付けどころだと思いました。
 この記事に共鳴した私はさっそく家電屋で化粧品をどのように売っているのか興味津々で出掛けて行きました。
 たしかに渋谷の駅前にあるその有名店の1Fは全てが化粧品売場になっていましたが、入り口は雑貨が雑然と山積みになり、店内に入ると化粧品は売られているものの棚置きばかりでドラックストアのようです。それもかなりの商品量なので何がどこにあるのかさっぱり見分けがつかず「すごい量だなー」と驚くばかり。棚も高く天井も低いので息が詰まりそう。正直言って化粧品売場のあるべき姿とはほど遠い雑な空間で大きな音のBGM、赤いベストのスタッフさんでは従来の家電量販店イメージを脱皮できていない雰囲気でした。

 

女性の好きな感覚とは

 若い女の子から大人の女性まで全ての女性にとって“化粧品の世界”はロマンチックな夢と楽しさに満たされたステージになっていなければ化粧品の世界ではありません。そこには“フワフワ”“キラキラ”“ピカピカ”“つるつる”“さらさら”“プルプル”という雰囲気で創られた空間が必要なのです。「何だその擬態語の集合は!?」と男性は思われるでしょうが、このフワフワ・キラキラ感が漂ってこそ女性は化粧品を信じ、明日の美しくピチピチになった自分を夢見て化粧品を買うものです。高価であってもすでに持っていても購買意欲を掻き立てるピカピカ・プルプル感があってこその世界づくりが大切なのです。
 この代表例が百貨店の1Fに鎮座まします化粧品売場です。全ての化粧品ブランドがそれぞれのブランディングイメージを打ち出した世界観あるブースをコストをかけてつくり、綺麗に化粧をしたスタッフがたった1本3,500円~5,000円の口紅でも丁寧に時間を掛けた接客をして販売してくれます。完璧な店づくりです。
 セルフが主体のドラッグストアは一見何の変哲もないような店づくりに見えますが、ブランド別の見やすい並べ方、サンプル商品の試しやすい陳列、イメージを伝えるポップの打ち出し、そして足を止め長時間物色しやすい通路幅に照明、顔を映す鏡や使用したティッシュを捨てる小さなゴミ箱など長年のノウハウが蓄積したセルフゾーンが出来上がり、女性たちは思いきりサンプルをつけ友人と試し合い、楽しいひと時を気兼ねなく過ごせるようにできいきます。
 さらに近年では意図的に百貨店には出店しないアンチ百貨店派のブティック型のコスメショップもたくさん誕生して、まるでお洒落な雑貨屋さん感覚でショッピングセンターや街中に可愛らしい店を出しています。店頭にフルーツを並べたり、シャボンをホイップクリームのように泡立ててお客様の手のひらにのせたり、毎年クリスマスコフレ(何種類かの化粧品やサンプルが入った特色ある化粧ミニバック)を限定品として販売したり…。
 どの店にもどの売場にも女心をくすぐるロマンがぎっしりと詰まっています。これが前述した擬態語の集合体空間なのです。

 

 非家電分野の強化のための女性客支持を得るという計画は大いに賛同します。女性にとっては立ち寄れる店が増えることは、便利で楽しいことですから。しかし、女性客を迎える店では、いきなり売場をつくるのではなく、まず“女心”の分析から始めることが成功への道かもしれません。女心は複雑でデリケートなものですから。

 

 

(記:島村 美由紀/販売士 第30号(平成30年9月10日発行)女性視点の店づくり⑮掲載)